Missing:村武








*  純愛  *








「純愛を…書こうと思って」
シャープペンシルをかちんと鳴らし、武巳は呟いた。
自分に云われた気がしなくて、だが村神は顔をのんびり上げる。
「…」
「……ちょっとね。たまにはいいんじゃないかなと思ったんだ。いろんなのにチャレンジしてみたらさ、そんだけ可能性って開けると思うんだよね。意外としっくりくるかもしれないし、純愛」
付け足すように、武巳はのんびり話した。
意図が掴めず、村神は黙って話を聞いている。
この部室には自分と武巳しかいないのだから、多分自分に云っているのだろう。これが独り言なら少なからず驚くところだ。
「書いて…みたいんだよ純愛を」
「……だから?」
全く話が見えてこない上このまま放っておけば絶対核心には近付かない気がして、村神はやっと口を開いた。
武巳がきっと村神を見据える。
何だと睨み返してみると、不意に武巳の顔がくしゃりと歪んだ。
「…………話が思い付かないよ、むらかみ…」
そのまま両手で顔を覆って、泣き真似を始めてしまった。
村神はこめかみに指で触れ、ふうと溜息をつく。
「…ためいきついた!いま!」
耳聡い武巳はそれに気付いてしまったらしく、泣き真似を即刻切り上げて、今度は怒り始めた。
「…悪い。だけどな、」
「俺がこれをお前に云ったところで、お前は俺にどうもしてやれないよって云いたいんだろ?わかってるよ。わかってるけど聞いてほしいじゃん俺の悩みをさ」
早口で一気に云い切ると、武巳はにわかに立ち上がった。
そして少し離れた村神のもとへつかつかと歩み寄り、胸倉を掴む。
村神は顔色ひとつ変えずに武巳を見上げた。
「純愛だよ、純愛」
「……」
返事もしない村神に、そのまま唇を重ねた。
「俺とお前は純愛と思う?」
「思わない」
「言うと思ったよ。…じゃあ禁忌かな?」
「…違う」
呟いて、村神は武巳の頭をそっと両手で挟み、引き寄せ、もう一度唇を触れ合わせた。
「じゃあ何」
「…俺の語彙にはない、何か」
「適当じゃん」
ふふ、と笑って、村神の膝の上に座り、武巳は村神に寄り掛かった。
「…うーん」
「ん?」
「いちゃいちゃしてみたら思い付くかと思ったけど駄目だよ村神。人選間違えたかな」
「それは初めに気付け」
行き場がなさそうにしている村神の手を腹の辺りに導いて、武巳は笑った。
「いちゃいちゃって言葉お前には似合わないよ。てんで気持ち悪いもん」
「お前が云ったんだ」
「…俺の乙女心を返してよ、村神?」
文脈を全く無視したような言葉を吐くと、武巳はすっと立ち上がって机に戻った。
「乙女心…」
また手元でペンやら消しゴムやらをいじくり始めた武巳を眺めて、村神はその言葉を口の中で繰り返した。
「…あ、」
声を上げて、武巳は原稿用紙にがりがりと何か書き始める。
やっと思い付いたのか、と村神もなんとなく落ち着いて、本を開いた。
「乙女心を村神に奪われた俺は、」
うっすら笑顔なんかを浮かべて、武巳は云う。
「純愛なんか書けません。向いてません。推理小説にしまーす。煮詰まったらまたキスしてね、村神くん」
完璧に開き直った武巳を見て、村神はまた溜息をついた。
















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2006.4.2
2006.4.4
2006.8.3