Mr.FULLSWING:豹子 「約束しよう。忠」 * ENGAGEMENT * 「え、あ…、はい」 日没をとっくに過ぎた後にやっと練習を終え、後片付けをし出した子津に向かって、黒豹が突然言い放った。 磨いている途中だった汚れた球を一端かごに戻して、子津は黒豹の言葉の意味を考えるより前に返事をしていた。 「約束、…ですか?」 「うん」 訝って言葉を反駁すると、黒豹は笑んで子津の傍にしゃがみ込んだ。 「何ですか?」 首を傾けて、子津は問いかける。 「決めてへん。まだ」 「…え?」 「あんな。わいと忠とで何か約束がほしいと思ってん。けど、考えたけどよう思い付かんかった。普通と逆やしなあ。約束したいことがあるから、約束する。な」 「…そうですね」 黒豹の突飛な発想がどうして湧いてきたのかよくわからないので、子津は曖昧に返事をした。 「約束があれば、忠ともっと繋がってられるんちゃうかなと、思った」 解せない気持ちでいる子津には勿論気付いているようで、黒豹は子津から目を逸らすとぽつりと理由を述べた。 「阿呆らしい程乙女チックやなとか思ったやろ」 「…そんな、」 「いいねん。自分でも思うし」 「……」 喉の奥で笑って、黒豹は立ち上がって伸びをした。 「まあその内思い付くやろうし覚悟だけしといて。さー後片付け再開や」 言って、黒豹は足下に散らばる用具を拾い集め始めた。 「…黒豹さん、」 「んん?」 「約束ですよ」 「ん?」 今度は黒豹が子津の意を掴み損ねて、くるりと振り返った。 「黒豹さんが約束を思い付くまで僕は待つ、っていう約束」 「…」 「だから、待ちくたびれる前に約束思い付いてくださいね。これも約束、す」 「…おう」 抱えた用具を再び地面におろして、黒豹は子津に歩み寄った。 「愛想尽かされたらかなんしな。頑張る」 「はい」 黒豹が口の端を曲げて笑うと、子津もにっこり笑んで返した。 ******************** 2007.2.27 2007.9.4 |