Mr.FULLSWING:虎猪








*  推理  *








野球を見終わってテレビをそのまま放っておいたら、いつの間にかサスペンスらしき2時間ドラマが始まっていた。
何だこれと見始めたら、ちゃちな推理ものだと思った割に何故か2人で見入ってしまった。
「俺こいつ。こいつが犯人と思うー」
虎鉄の腕をぐいぐい引っ張り、画面に大写しになった男を指差して猪里は云った。
「甘いNa。俺はこっちだと思うZe。あの右端の美人」
場面が変わり、画面の隅に映った女を虎鉄は指差す。
「静香サンは犯人やなかよォ。ぜったいこっち。幸太郎」
「シアワセ太郎頭悪そうだっTe。静香サン美人Yo?薄幸そうYo?きっと犯人ですYo」
「絶対?自信ある?」
「あるある。何か賭けRu?」
「賭けるー!」
コマーシャルに入ったのを見届けると、猪里はぱたぱたと台所に走っていった。
「…勝ったら猪里ちゃんがほしいでーSu」
「ん?何か云ったかい?」
「云った云っTa」
「なに?」
小首を傾げて、のんびり戻ってくる猪里をもう一度隣に座らせて、虎鉄は向き直った。
「静香さんが犯人なら、猪里さんを俺に下さい」
にっこり笑って、猪里は持ってきたペットボトルを机の上にがつんと置いた。
「い、猪里ちゃ…」
「いいよ。あげる。かわりに幸太郎が犯人なら、焼酎死ぬまで一気飲みな?安心し、そんぐらいの金なら出したるけん」
満面の笑みを貼付けたまま、猪里はそら恐ろしい台詞を吐き捨て、虎鉄の手を握った。
「…やっぱり遠慮しまーSu…」
「そう?残念やね」
「…もっと普通のにしましょ。普通No」
「うん」
猪里は虎鉄の手を離し、テレビへ向き直った。
「キスで良いな、キス」
「キス。いいよ」
云って、互いの顔を見合わせてにやりと笑った。








「…やられた」
「やばい、思う壷ってやつじゃねェの、こRe。サスペンスにはまりSo…」
猪里は寝転び、虎鉄は机に突っ伏し、覇気という覇気をねこそぎ奪われたような状態で2人はだらけていた。
「犯人はスーパーのレジ打ちしてるオバサンとかゆって…名前も知らNeー」
「なんで!あんなに怪しかったやん幸太郎!にやって笑っとったあれは何なん!」
激昂していきなり猪里はスリッパを虎鉄に投げ付けた。
「いてっ八つ当たりかYo」
「賭けは両者負けやね。キスはなし」
ごろんと俯せになり、両肘をついた腕の上に顔を乗せ、猪里は気が抜けたような笑みを浮かべた。
そんな猪里に、虎鉄はそろそろと擦り寄る。
「賭けなんかなくたってキスぐらいいつでもいくらでもして差し上げますYo」
「…」
黙ったまま、猪里はにっこり笑った。
「Na?」
唇には届かないので、その柔らかい髪に口付けて、瞳を覗き込んでみる。
途端に、ぐい、と体を押しやられた。
「な、にすんの猪里ちゃん」
「テレビが見えん。今度はホラーやってる、ホラー」
「…あぁ。井戸からコンニチワするアレですKa」
足をぷらぷらさせて、猪里は画面に見入っていた。
だがしばらくしてすぐに起き上がり、虎鉄のすぐ横に座る。
「知ってるは知ってたばってん、ちゃんと見るのは初めて。怖いん?これ」
「うーん。そこそKo」
「ふゥん?」
ぴく、と虎鉄の体が身じろいだ。
自分の手に猪里の手が重なっていたのである。
慌てて、猪里の顔を見た。
「どう。どきどきする?」
「…うん。すRu」
楽しそうににっこり笑うと、猪里はまた画面を眺めた。
「キスはまた後でね。俺が怖がりよったら、そんときはしてあげてな」
「…おー」
ぎゅ、と手を握って、虎鉄も笑んだ。
















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2006.4.4
2006.4.4
2006.8.3