DARREN SHAN:クレダレ








「僕って不幸?」








*  束  *









「……」
何を言われたのかよくわからずに、クレプスリーは黙ってダレンに視線を遣った。
「クレプスリー?」
ソファの上でクッションを抱きながらきょとんとした顔をして、ダレンはクレプスリーを見つめた。
「…今、何と言った?」
聞き間違いか何かだろうかと、クレプスリーは聞き返す。
「え。だから、僕って不幸?って」
「……」
聞き間違いではなかったようだ、と思い、クレプスリーは頬の傷を掻いた。
「…何故そう思う?」
「うん?うーん、とね」
こてんと首を傾けて、ダレンは考えるような仕草をした。
頭のねじが一本どころか二本も三本も抜けてどこかへ行ってしまったのではないかと思いながら、クレプスリーはその様子を眺める。
「僕は人間じゃなくなって、パパもママもアニーも友達も何にもなくなっちゃって、」
「……」
「でも、あんたが好きなんだよ」
話に飛躍を感じて、クレプスリーは眉根にしわを寄せた。
そんな表情に気付いたのか、ダレンは言葉を続けた。
「諸悪の根元を好きになっちゃったんだよ、僕。こういうのストックホルム症候群て言わない?」
「ダレン…」
呆れて、クレプスリーは呟いた。
「僕から全部取ってったひと好きになる僕ってきっと馬鹿で不幸なんだよね。でも、だからって無理に嫌いになったらそれこそ奈落の底じゃない?」
「……」
返す言葉もなくて、クレプスリーは黙るしかなかった。
「僕からあんた取ったら今度こそもう何にもないよ」
「…、」
「他に選択肢がないからあんたを好きになるしかなかったのかもしれないけどね」
「……、…ダレン」
「ん?」
黙っている場合でもないだろうとすぐに思い直して、クレプスリーはダレンを呼んだ。
ダレンはきょとんとした顔で首を傾げた。
「何かあったのか?」
「…」
「ダレン?」
「別に、何にもない」
言って、ダレンは笑った。その笑顔の屈託のなさがかえって不気味に感じる。
「何でもないんだ。ただね、約束、したかっただけ」
「約束?」
「そう」
クレプスリーが反芻すると、ダレンは大きく頷いた。
「諸悪の根元が幸せの源になるように、クレプスリー、頑張って」
「……」
「ね。約束、出来ない?」
真っ直ぐに見つめてくる視線が痛くて、クレプスリーは目を逸らした。
「…そんな不確かなことを、簡単に約束は出来ん」
「野暮だよ。その場しのぎにでも、言ったらいいのに」
「それでいいのか?お前は」
クレプスリーが何を言っているのかわからない、と言った顔で、ダレンは首を傾けた。
「いいんだよ。だって、約束って元から無責任なものでしょ?」
今度こそ返す言葉がなくなって、クレプスリーは絶句した。
「…どうしたの?」
「いや…」
「約束、してくれる?」
「…………ああ」
結局ダレンの妙なテンションに振り回されただけだったクレプスリーが妥協したように頷くと、ダレンは満足して微笑んだ。
















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ダレンが不思議っ子でスミマセン…




2007.3.4
2007.9.4