Darren Shan:クレダレ








*  降る水の恩恵  *








不健康なほどホテルにこもりっきりだった。
というのも、ここ数日雨が酷かったからだ。
あまりにも酷いのに加え、わざわざそんななか出ていかなければならないような用もなかった。
いくらずっと屋内にいるのが嫌だからといっても、この雨のなか外に出て行ったりなんかしたら余計鬱屈しそうだった。
この日は夕方辺りにうとうとし始め、ソファでテレビを見ている間にいつの間にか眠っていた。
窓の外を見れば、陽が落ちている。クレプスリーはとっくに起き出しているはずだったが、姿が見えなかった。というより、気配すら感じない。
「…出掛けたの、かな?」
半ば寝ぼけながらダレンは呟き、再び目を閉じた。
雨の音はしなかった。
止んだのだろう、と思ったが、嬉しいというより皮肉な感じがして、眉間にしわを寄せた。雨のせいで少し卑屈になった気がする。
色々と面倒になって、ダレンは再び意識を手放した。








「…………」
人が直ぐ傍に、目の前にいるような気配を感じて、目を覚ました。
その割には緩やかで、穏やかな覚醒だった。
ゆっくりと、瞼を開く。
「…なに」
そして、目の前にあるクレプスリーの顔に向かって、短く刺々しい言葉を吐いた。
「いや。夜だというのによくもまあそんなに寝ていられるものだと思ってな」
刺はクレプスリーには通用していないらしく、平然と返された。
「…雨きらいじゃなかったんだけど、そろそろきらいになりそう」
返事にはなっていない返答をして、ダレンはのんびり体を起こした。
そうして出来たスペースにクレプスリーは座る。
「たかがこれぐらいでか。長生き出来んぞ、お前」
「……なに、それ」
相手のペースを全く無視して、ダレンはクレプスリーが自分の脇に置いている紙袋に視線を遣った。
「ああ。お前があまりにも鬱々しとるもんだからな」
云って、紙袋から中身を取り出し、膝に乗せた。
「本」
「ああ。嫌いか?」
「ううん」
クレプスリーが取り出した数冊の本のうち、一番上に乗っているものを手に取ると、ダレンはそのページをぺらぺらめくった。
「わざわざ買いに行ってくれたの?」
嬉しそうに口許を綻ばせ、尋ねた。
「ああ、まあな。まだしばらく雨は続くだろうし、お前が昼間あまりにも退屈しているようならどうかと思って」
「ありがとう」
先程までとは程遠いような笑顔で云うダレンに面食らって、だがクレプスリーも微笑んで頷いた。
そして頬の傷を掻きながら、小さく咳ばらいをする。
「どんなものが好きかわからなかったからな。いろいろ選んできたんだが」
「これ。これが面白そう」
持っていた本は自分の膝に置き、クレプスリーの膝に乗っている本を一冊持ち上げた。
「そうか。気に入ってもらえるものがあって、よかった」
「全部気に入った。クレプスリーが選んでくれたんなら、全部。それこそ本じゃなくたって」
上機嫌でそう云って、ダレンはクレプスリーの肩にもたれ掛かった。
「僕、雨きらいじゃないかもしれない」
「現金な奴だ」
「そしたら長生き出来るんでしょ?」
悪戯っぽく笑ってみせたダレンにつられて、クレプスリーも笑った。
「そんなこと云ったか?」
「それっぽいことを云ってたよ、さっき」
「そうだったか」
「そうだよ」
お互い主張もないのにそんな問答を続けた後、たたき付けるような雨の音にはっとして、窓を見た。
「…さっきは止んでたんだがな」
「ちょうどよかったんだね」
「…なんだ、その表情は」
うっすら微笑んでいるダレンを訝って、クレプスリーは問い掛ける。
「雨が降ったらあんたが優しくしてくれることがわかったから、もういいやって思ったんだ」
云ってページを繰り始めたダレンを見て、クレプスリーは苦笑して、ダレンの髪を撫でた。
















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2006.4.22
2006.4.23
2006.8.3