*  残り滓  *




















余韻に浸る余裕もなく、息遣いは闇に溶けて消えた。
数少ない行う運動のうちのひとつを終えた直後で、空目は指一本動かすのさえ億劫になり、ただ瞳を閉じた。
目の前にはやたらに逞しい胸板がある筈だが、この闇では目を開けたところでどうせ見えないだろう。
ただ少し肌寒いので、少し身じろいで、気持ち分だけすり寄ってみる。
すると相手には何故かそれが伝わったようで、口元まで隠れるほど布団を引っ張りあげてくれた。
この腕に抱かれるのが心地のいいことなのだと、覚えたのはいつからかわからない。
空目はぼんやり瞼を開き、そして村神の胸に触れた。
「…どした、空目」
ぼんやりと、村神が尋ねる。
「……」
空目は答えず、村神の胸元に額を寄せた。
「…何だよ」
そう言うが特に答えを求めているわけでもなさそうで、村神は空目の髪を梳くと、目を閉じた。
全身を襲う倦怠感にあらがうことが出来ず、そのままでいれば確実にものの数分で眠りに落ちるだろう。
ふと、ふたりの足が触れ合った。
抱き枕よろしく村神が足を絡ませると、空目が軽い抵抗を示すように身じろいだ。
大人しくしていろと頭を自分の胸に押しつけてやると、空目のごく小さな抵抗も止む。
「……」
だが暫くもすると空目は再び小さく動き、体の上に投げ出された村神の腕をどかした。重たくて息苦しかったようだ。
「……んだよ、お前、大人しくしてろ」
小言のように村神が言うが、空目は小さく息を吐いただけで、目を閉じた。
「なんか目、冴えてきたな。今何時だ」
独りごちて、村神は枕の横の時計を見た。
夜行塗料が薄ぼんやりと闇に浮かんでいて、それは2時を指している。
まだこんな時間かと、村神は時計をぞんざいに元の辺りに戻す。
それから微かに喉の渇きを覚えて、上半身を起こした。
フットライトをつけてからなんとなく空目を振り返ってみると、見上げてくるその視線と丁度かち合った。
「独りは寂しいから行くなとか言ってみろよ」
言って、村神は空目の頬を撫でる。
「……知るか」
「可愛くねえこと」
「……」
これ以上のやりとりを面倒に感じたので言葉を返さず、空目は寝返りを打って背を向けた。
本人にそのつもりはないのだろうが、それが拗ねた仕草に見えて、村神は口の端で笑む。
村神はその肩に、口付けを落とした。
そこから徐々に首筋まで唇で追って行くと、そこでやっと空目が僅かにこちらを向く。
「…村神?」
「…やっぱもうよくなった。いてやるよ、傍に」
「誰も傍にいろとは言ってないが…」
「いんだよ別に、何だって」
短く返しながら、村神は布団の中に戻った。
空目を見ていたら、何故だか無性に離れ難い気持ちになったなどとは口が裂けても言えない。
コイもアイも頭をおかしくする麻薬だという空目の持論に、今なら大いに賛同できる。
堕ちるならこいつも道連れだと、村神は唇を合わせながら思った。




















END




****************
……ゴフッ。死
あわわわわわ何書いてんだろ。
久し振りに何か書こうじゃないかと思ったらこんななった…こんななったよ…!!
ちょ、私もーちょっと頑張ってみよ。
ほんとに頑張る。




2007.8.5