死んでいるのかと、思った。
















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目が覚めて、空目は村神の腕と布団の中からするりと抜け出した。
それから村神の顔を覗き込んでみるが、村神は空目が腕の中からいなくなったことに気付かず穏やかに眠っている。
そのまま空目は村神を放って洗面所へ向かった。












時計を見ると九時近くなっていた。
いつも年寄りみたいに早起きする村神が今日は起きてこない。
死んでいるのかと適当なことを考えながら空目は寝室に戻った。
村神は一応生きているようで、胸部が上下している。
空目が髪に触れても目覚めない。
村神はいつも勝手に起きる人間で、どちらかといえば空目はいつも起こされる側の人間であるから、村神を起こしてやったほうがいいのかと空目は暫し考えた。
だがその村神がここまで起きないのだから、それなりに疲れているのかもしれない。
九時半まで起きてこなかったら起こそう、と決めて、空目は寝室を出た。












時計は九時半を少し回っている。
村神は起きない。
ベットの前で膝立ちで村神の寝顔を眺めて、空目はぼんやりしていた。
指で髪を梳いて、それから頬を撫でる。
思えば、こんな風に村神の寝顔なんかを眺めたことはこれまでなかったような気がする。
だから何だという訳でもないが、ただ空目はそう思った。
「…村神、」
呼ぶが、村神は気付きそうもなかった。
「村神、起きろ」
村神は眉根に少ししわを寄せただけだ。
つられて、空目の眉根にもしわが寄った。
「村神」
肩を掴んで揺すってみても駄目だった。唸っただけだ。
「……」
空目は、ここまでして起こすことの必要性などないことを思って、次の策を練ることすら放棄しかけていた。
だが最後にほんの少しだけ粘ってみることにする。
「村神」
そっと口付けてみた。
「……うつ、…め、」
それでも起きないで、村神は夢の中で空目の名を呼んだだけだった。












結局村神がのっそりと起きてきたのは正午を少し回ったくらいだった。
「……はよ」
「……」
居間のテーブルの向かいにどっかりと腰を下ろした村神の挨拶を無視して、空目は村神をじっと見つめた。
「…お前なあ。起こせよ。昼だぞ、もう。時計の見方ぐらい知ってんだろ」
寝癖を指で梳きながら、村神はいきなり文句を垂れる。しかも横柄だ。
「起こしたぞ」
「俺起きてねェんだから起こしたことにはなんねェだろう」
空目がきゅっと目を細めたのを見るが、そう頓着せずに村神は立ち上がり、洗面所へ向かった。












村神が洗面所を出るとき、ちょうど空目がその前を横切った。
「…待て」
村神は空目の服の首元をひっ掴んで引き留めた。
当然首が締まって、空目は露骨に嫌な顔をして村神の手を払った。
「何だ」
村神を見上げて、問いかける。
すると村神は言いづらそうに頬を掻いて、目をそらした。
「…あの、さ」
意を決したのか、改めて空目を見据えて村神は話し始める。
「…お前、俺起こすのにキスとかしたか?」
「何故そんなことを訊く」
「夢を見た。妙にリアルな」
違うならいい、と村神は空目に背を向けて、さっさと居間に向かった。
そんな村神の服の背を、空目は手を伸ばして掴んだ。
「…ん?」
村神がゆっくり振り返る。
「したぞ?」
「キス?」
「ああ」
「…起きてるときにしろよ」
苦笑して、村神は大きな手のひらで空目の頭の上に乗せた。
そして空目の髪に口付けて、それから自分の行動に勝手に照れて村神はくるりと背を向けた。
「…村神」
呼んで、空目は再び村神の服を掴んだ。
「何だよ」
村神はもう振り返らないし立ち止まりもしない。
そのまま空目も村神に引かれて居間に着いてしまった。
「村神、」
「何だ」
まだ照れているのか何なのか、村神は振り返りはしたが言葉尻が荒い。
空目はそんな村神の胸ぐらを掴んで、引き寄せた。
「…う、つ」
「お前はすぐに機嫌が変わる」
呆れたように呟いて、空目は顔を引き寄せた。
唇が触れる寸前で空目は一瞬止まり、結局頬に口付け、手を放した。
「…フェイントだ」
「知るか」
冷たく言い放って、今度は空目が村神に背を向け、居間を出た。
「待てって。おい」
「…」
無視を決め込む空目を追って、村神も居間を出た。
「待てよ、こら」
「煩い」
「いいから待てっつの」
村神は空目を後ろから抱きしめた。
「…何で俺らこうも不毛なことばっかやってんだ?」
今更気付いたのか、急にそんなことを言って村神は首を傾けた。
「お前が仕掛けるんだろう」
「俺かよ」
「俺が近藤相手にもこんなことしていると思うか?」
「思いたくねェ」
空目の言葉にきっぱりと返して、村神は空目の頭に顎を乗せた。
「…でも、不毛だ。不毛ついでにもう少しこうしてろ」
村神は空目を抱きしめる腕に力を込めた。
勿論、空目が苦しくない程度に。
「……意味がわからん」
ため息をついて、空目は呟いた。




















END




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朝っぱらからなにやってんだよこいつらは、とか思いながら書いたけれど、朝じゃないんだったこれ。死
リハビリしようかな、と思いまして。
村空って、難しいですね…………(今更




2007.3.24