「…馬鹿だ。としか云いようがない。なんつー馬鹿…」












*  如何ともし難い愚か者  *




















ベットに横になって、村神はとりあえず呟いた。
今日はクリスマスイブだ。お呼ばれされてあっさり村神は空目の家に上がり込み、いつも通りの料理を振る舞い、買ってきたケーキを食べた。
小さかったがホールだったので少し残り、だが冷蔵庫に入れて明日にでも食べることにした。
片付けもそこそこに村神は先に風呂に入り、今はごろごろうだうだしながら空目が風呂からあがるのを待っているところだった。
「邪念が…、」
頭の中は邪念と邪推ととにかくよろしくない思考がぐるぐる巡って鬱々してきていた。
「…、何か云ったか?」
「う、…つめ、」
心臓が跳ね上がるような思いと共に、村神は跳び起きた。
「云…ってない」
「そうか?」
髪からまだ雫を滴らせて、平生からでは考えられない程ラフな格好をした空目が後ろ手にドアを閉めていた。
よく見てみれば村神のトレーナーを着ている。適当にあるものを適当に着てしまう空目に、村神は溜息をついた。
別に呆れている訳ではない。
「ちゃんと髪拭けよ」
村神の隣に腰掛けた空目の肩にかかっていたバスタオルを引っ張って頭に被せると、ごしごしと乱暴に拭いてやった。
「む、らかみ、」
流石に少し嫌なようで、空目は村神の服を引っ張った。
「あー…悪い」
適当に謝りながら村神はバスタオルをどけ、ぼさぼさになった空目の髪を指で梳いた。
村神の服は空目には明らかに大きすぎていた。
今少しの乱暴を働いたせいで首許が、鎖骨が部屋の空気に触れていた。
目に悪いことこの上ない。
「…話を鵜呑みにするということは、」
あらわになった首元を指の腹で撫でながら、村神は歌い上げるように云う。
「愚かだと思うべきなんだろうか」
そのまま唇を撫でると、空目は薄く唇を開いた。
「…愚か者になりたければ鵜呑みにしたらいい」
頬を手で挟むと、村神はそっと口づける。
「愚かであることが、正しくも間違ってもいない」
呟くように云う空目。
互いの吐息が絡み、視線が交錯した。
首をつう、と舐め上げると空目は首を反らせた。深い溜息が余計悩ましげに感じられて、村神は自分が何かにせき立てられるような感覚を覚えた。
考えてから、悩ましげなんて陳腐な言葉だと思い、村神は自分の語彙の貧困さを呪った。
だが或いは、と思う。空目に似合う言葉などないのかもしれない。
「…いいのか」
空目は押したら直ぐ倒れ、村神はその上にのしかかった上でそう聞いた。
「嫌だと云ったらやめるのか」
「…かもしれないな」
「度胸はどこへ行った」
「胸にしまった」
挑発のつもりはないのだろうがそう聞こえる空目の言葉に、村神は自分でもよくわからない返事をしていた。
「…要はお前が嫌と云わなきゃいいんだ」
「有無を言わせず、というのは…」
倫理的にどうとか云い出すのではあるまいなと思いながら、村神は空目の服の裾をたくし上げた。
空目の頭からすっぽりトレーナーを抜くと、村神はそれを床に放った。
それは空目が着ていたとはいえ自分のものであるから扱いなど気にする必要はなかった。
服を脱がせる為に頭の上の方で手持ち無沙汰になっていた手は暫く宙を彷徨ったが、暫くして村神の髪を触ったりというところに落ち着いた。
「ん」
「ん?」
見ると、いつからあったのか枕元に赤いリボンが落ちていた。先程ケーキの箱に付いていた装飾のような気がする。
村神はそれを手に取った。
「・・・なんだ?」
上半身裸で何となく寒そうな空目が、自分の見えないところで何か見つけたらしい村神に声をかける。
「リボン見つけた」
云いながら、村神は空目の髪を一房とった。
「・・・・・・・・・何をしている」
していることはわかるのだが、なんの為にそんなことをし出したのかが気になって、空目は加えて云う。
「うん、まァ・・・ちょっと」
よくわからない返事をしながら、村神は空目の髪にリボンを括り付けた。
「・・・駄目だ、似合わねェな」
どうやら本気で云っているらしい村神はそのままリボンについての思考は放り投げて、ごく軽いキスをした後また空目の服を剥ぎ始めた。
なんとなく髪の毛を引っ張られるような感覚が少し気になるらしい空目は村神より少し長くリボンについての思考を留めていたが、すぐにどうでもよくなったらしくやはりすぐに投げ出した。
ズボンに手を差し入れると、空目の眉が少し寄った。
嫌がっているようにも見えるが、手が村神のシャツの裾を持ち上げていた。
これで嫌だなどと云われても絶対に信じない。
腹だけ素肌が触れ合っていた。風呂上りのせいだろうが、空目の肌は熱かった。
自分の肌もきっと熱い。風呂から上がって熱は一度冷めかけたが、今また熱を持ち始めていた。
「村神、腕」
「ん」
云われて、村神はズボンに差し込んだ手を抜いて、腕を持ち上げた。
空目はシャツを引っ張ってまずは頭を抜いて、それから片腕を抜いた。もう片方の手に引っ掛かったシャツを先程のトレーナーと同様床に放ると、村神は空目の鎖骨に唇を寄せ、舌を這わせた。
軽く吸うと簡単に痕が付く。
「ん、」
ちゅ、とわざと音を立てて3つめを付け終えると、村神はゆっくり下の方へ舌を這わせていった。
胸を通り過ぎ、腹まで行くと、些か擽ったそうに空目は身を捩って、村神の髪に手を差し込んだ。
「・・・、・・・」
胸に溜めた熱い息を空目が吐く。
じりじりとズボンを下げ、村神は足の付け根にキスをすると顔を上げた。
すると、滲んだ瞳を薄く開いている空目と目が合う。
何を考えているのか推し量れなくて、村神はまた空目と同じ目線まで体をずり上げる。
「空目」
瞳を覗き込むと、空目はひとつ息を吐いて、村神を見上げた。
「・・・、何考えてる」
空目が村神の首に腕を絡めてみると、鼻先で村神が訊いた。
「お前が次に何をするのか、」
髪に指を絡め、
「俺が何をしたらお前はどんな反応をするのか、」
頬を撫で、
「俺が次に何をするのか」
唇を撫で、口付けると、村神は些か頬を上気させ、荒々しく自分の唇を空目の唇に押し当てた。




















ついている灯かりはベットの脇の電気スタンドだけになっていた。
寄った眉根に口付けを送り、村神は秘所から指を引き抜いた。
「・・・、く、」
空目はずっと詰っていたような息を吐き、それを胸に感じた村神は空目の頭を抱き寄せた。
「・・・だいじょうぶか、」
耳元で聞いてみると空目は村神の首に絡めた腕に力を込めた。
熱い指で、汗で張り付いている前髪をかき上げてやると、村神はそこへ口付けた。
空目の唇が誘うように開かれて、村神はその誘いにあっさり乗る。
唇を合わせて舌を送り込むと、舌が交わった。だが幾分呼吸が苦しそうに見えて、村神はすぐに離れてしまう。
それをさして追いかけようともしない空目は、村神の肩口に顔を埋めた。
「少し、・・・まて」
腕を伸ばして、村神はベット脇にある小さな机の引き出しを開けた。その中のまた小さい箱に指を差し入れ、正方形に近い薄っぺらい袋を出す。
「・・・、」
空目が何か云いたそうにその村神の行動を眺めていた。
「・・・なんだ」
「いつも思っていたんだが・・・。必要・・・、あるのか」
「・・・要るだろ。お前、弱そうだから」
村神の指からぴっとそれを抜き取ると、口と片手とを使って袋を破いた。
隙間からのぞくものを今度は村神が抜き去ると、さっとそれをつけて空目の足を抱えあげた。
指で場所を確認して、先を押し当てると空目が目を伏せた。
瞼にキスをすると、ゆっくりと奥へと腰を進めようとするが、そう簡単に進入は許されずに村神は空目の手を握った。
「痛くない、か」
「・・・、」
なんとなく色気のない会話を流し、空目が僅かに頷いたのを見て、村神は体を揺すった。
「あ、ァ・・・ッ、ん・・・ッ」
苦しい息を吐き出すように嬌声を上げる相手を気遣いながらも、村神は更に大きく律動を始めた。
手を握り返す力が大きくなったことにも気付いてはいたが、それが抵抗なのか享受なのかの判断も出来ず、ただ欲望の赴くままに腰を遣った。
「・・・、んぁ・・・ッあ、ア、」
同じリズムで声を上げる目の前の人物の震える睫といい、上気した肌といい、村神の欲を掻き立てるには充分すぎるぐらいの要素がそこには溢れていて、理性などとうの昔にかなぐり捨てていた。
時々求めるように伸びてくる手も、たまに薄く開いて村神を見つめてくる融けた瞳も、全ては都合のいいように変換されていた。
薄く開いた唇から覗く舌に食いつくように唇を重ねた。
「んゥ・・・、ん、ン・・・、ふ・・・ッ、」
両腕を村神の首に絡め、空目は髪を弄った。
零れた唾液が口の端を伝って落ちていくが気にも留めない。
「・・・空、目、」
「ァ、・・・ッや、ァ、・・・・・・むら、かみ・・・、」
やや掠れた声で呼び、動きが少し大きくなったかと思えば、村神より先に空目が果てた。
そのせいで一瞬強烈な締め付けを食らった村神も、薄皮一枚隔てた空目の中に熱を放つ。
「・・・・・・、・・・ッ」
声にならないぐらい疲弊し切った空目の上に、べしゃりと村神がのしかかった。
「・・・だいじょうぶか」
焦点が合わないぐらい近くで空目の瞳を覗き込んで、村神が訊く。
「お前、・・・いつまで・・・なかにいる気だ・・・」
目を細めた空目が力の入らない足で村神の足をぺち、と蹴ってみるが、村神はなかなかあっけらかんとしていた。
「・・・も少し」
「・・・零れるぞ。元も子もない・・・」
「色気ねェ・・・」
もっともだが、そんなことを求めているのならお互い相手を変えればいいだけだと思っているので、さして気にもせず村神は腰を浮かせた。
そして使用後のものを、ベット脇の小さいゴミ箱に捨てる。
空目の手が、汗の浮いた村神の額を撫でた。
村神は両腕を空目の顔の脇に置き、頭を抱えるようにそっと口付けた。
「・・・平気か」
いつの間にか外れて枕の下敷きになっていたリボンを見つけて、先ほどの結び目を解きながら村神は訊いた。
「・・・どの程度を、平気と云うかによるな・・・」
ぼんやりしながら空目は答えた。
その様子を見て、村神は電気スタンドの灯かりを消した。
「寝るか。・・・体力も、たくさん消耗したことだし」
「・・・そうだな」
返事を聞いて、村神は薄い体を抱き寄せた。
素肌が直に触れ合っていたが、何故か欲がどうとかいうものは見事に吹っ飛んでいた。
ただ、その温かさに心を落ち着かせただけだった。
鼻の頭にキスを送ると、まだ大分湿っている空目の髪に指を絡めた。



















一度目を覚ましたが、温かさと心地よさと僅かに残る疲労とで思わず二度寝をしてしまったあと、空目はのんびり目を覚ました。
村神はまだ眠っている。
目の端に赤い色がうつってそちらへ視線をやると、リボンが落ちていた。
これが昨日頭についていたのか、と考えながら空目はそれを手に取り、そして躊躇いもせずにそれを村神の髪に括り付け始めた。
「・・・・・・似合わないな」
似合うような期待など初めから微塵もない。
そのままそれは放置して、空目はまた布団に潜った。
半ば忘れていたが、今日はクリスマスだ。
やることがいつも通り過ぎて、本当に忘れるところだった。あえて云うならば昨日ケーキを食べたぐらいだ。
次に起きて、また村神が上にのしかかってくるようなことがあっても、それぐらいは許してやろうとなんとなく考えて、空目は目を閉じた。




















END




********************
ふはは。ははは。何
色っぽいえろが書けないよーう。
書けないのに書きたいとかほざいてりゃ世話ねぇやと思いつつ。
色気の吹っ飛んでいるであろうこのカップリングなら書きやすいって、間違った認識かなァと思いつつ。
精進、致します。
えろの難しさにクリスマスを半ば忘れていました。爆




2005.12.24