「クリスマスって云うのはね、陛下。恋人達の為だけの日って云っても過言ではない訳だよ。キリストさんには悪いけど」 * 話を鵜呑みにするということ * 目の前でいきなり演説ぶり始めた武巳を横目でちらりと見ると、空目は読んでいた本をぱたんと閉じた。 「恋人に対して少しは大胆になってみることが出来る日な訳!」 「つまり?」 「村神の12月24日の夜を予約したらいいよって話。云うまでもないけどそれには25日の朝も含まれてるぜ」 にこっと笑った武巳を空目は暫く眺めた。 「…」 「村神喜ぶと思うけどな」 「なんでだ」 「なんでって陛下、そりゃあさー、」 「待て近藤、俺ではない」 「んぁ?」 快活に弁舌を振るっていた近藤は空目に制されて初めて気付いたが、すぐそこに村神が立っていた。 「いッ、…いいいつの間に来てたんだ村神!」 「今だ」 「何で来ちゃうんだよー!」 「部室に来て何が悪いことがある」 もっともなことを云われ、武巳は怯んで押し黙った。 その間に村神は二人につかつかと歩み寄り、パイプ椅子にどかりと腰を降ろした。 「で、俺が喜ぶって何の話だ?」 「じゃ!たった今急用を思い出した気がするからサヨウナラ!」 「あ、コラ近藤、」 またくだらないことを空目に吹き込んでやがったな、となんとなくわかっていたが、武巳と空目とでは何故か見解が食い違うことが多いので、同じことを双方から聞いておかねばならないと村神は最近思い始めていた。 「・・・たく、」 「村神」 空目がパイプ椅子を寄せて、村神のすぐ傍に座った。 「な、んだよ」 少しだけうろたえて、村神が答える。 「24日の夜、」 「夜?」 「俺の為に空けておけ」 「は、」 「いいな」 半ば命令のような口調にくらくらしたが、村神は下から見上げてくる空目の視線から目を離すことが出来ず、暫く見詰め合ってしまった。 「・・・わかった、けど。一体どういう風の吹き回しだ」 「・・・・・・」 ようやく村神から目を離した空目が、大きな仕事でも終えたように深々と背もたれに身を預けた。 「話を真に受けてみた」 「ん?」 「それだけのことだ」 「ふゥん?」 いまいち要領を得なかったが、なんとなく村神は返事をした。 「で、24日空けといたらお前何してくれんだ」 「・・・・・・」 空目の視線が宙を泳いだ。 「お前の好きなように、」 「は、」 「・・・するといい」 ゆっくり云うと、空目はまた村神を見た。 「・・・らしくねェ」 「かもしれんな。だが云った筈だ」 「吹き込まれたこと真に受けてみたって?」 「あぁ」 「それがらしくないんだ」 云いながら、村神は読もうと思って出していた本を鞄に放り込んだ。 「・・・・・・それはそれでいいんだけど。ちょっとこっち来い空目」 「ん」 手招きをすると、空目はあっさり村神の前に立った。 村神は空目に手を伸ばすと、その細いというか薄い体を引き寄せて、右膝の上に乗せた。 「・・・」 「好きなようにしていいなんて云われたら、それこそ俺も間に受けるぞ」 冗談めかして云ってみると、暫く空目は村神の瞳を覗き込んでいたが、不意に軽く口付けてきた。 「お前にその度胸があるのならな」 「喧嘩売ってんのか?」 村神は空目の言葉に苦笑した。 「あるさ。度胸ぐらい」 空目の背に手を回し、ふわりと抱き締めた。 「クリスマスだしな」 嫌がるでもなければ抱き返すなんてこともせず、空目はただ村神に身を預けていた。 「クリスマス、だからなのか」 今まで特別意識したこともなかったが、武巳曰く『少しは大胆になってみることが出来る日』であるらしいクリスマス。 折角だから便乗して、大胆にはならないかもしれないけれど、いつもとは違うようにしてみようと思わないでもなかった。 どうやら村神も喜んでいるようであるし、深くは考えず、武巳の話を馬鹿みたいに真に受けておいたほうがいいのかもしれない。 なんとなくそんな結論を出して、空目は村神の肩に頭を乗せた。 END ******************** ぎゃー!!!!(ウルサイ もう何も云うまい。 なにしろクリスマスだ。(え 2005.12.23 |