「予定?」
「そ。予定」












*  人勾引  *












放課になった途端教室にやって来た後輩兼恋人を平生の通りに迎え、屑桐はとりあえずそこで掃除が終わるのを待った。
冬期休業が近付いており午前で終わってしまった授業に加え、3年の今の時期の為受験勉強で何かと忙しい人間が多いので、教室には陽もかなり高いうちから屑桐達を除いては誰もいなくなってしまった。
屑桐が窓際の一番後ろの席に座ると、御柳はその前の席に座った。
「そこ屑桐さんの席なんすか」
「いや。向こうだ」
云って適当に教室の真ん中らへんを指差すと、御柳も適当にふぅんと返事をした。
「で、ですね。クリスマスの予定聞きに来ました」
「予定?」
「そ。予定」
屑桐の顔を下から見上げ、御柳はへらっと笑った。
「予定か…、」
ぽつりと呟いて、屑桐は背もたれに身を預けた。
期待を胸に込めて、というのがありありとわかる様子で御柳は屑桐をじっと見つめる。
少し演技がかってないかと思いながら屑桐は暫くそれを眺めた。
「…あるぞ、予定なら」
「…は?勉強、とかじゃなくて?」
「あァ、」
急に不機嫌な顔になった御柳が畳み掛けるように言葉を投げた。
「24と25とな」
「なんで!なんで俺の為に空けといてくんねーの馬鹿!」
「何だ、…空けておいてほしかったのか」
馬鹿だと云われたことはとりあえずスルーし、平然と云ってのける屑桐に御柳は机を叩いて立ち上がった。
「信っじらんねェ、」
吐き捨てるように云って御柳はまたどすんと座った。
「御柳」
屑桐が呼んでも、御柳はそっぽを向いたままで反応しなかった。
随分わかりやすい拗ねかただな、と屑桐は悠長に考えている。
暫くは押し黙ったままで御柳は何か考えを巡らしているようだった。
怒ったのかと、やはり屑桐は悠長にそれを見ている。
「…誰となのさ」
「ん」
「誰と過ごすの」
「知りたいか」
「当たり前。…兄弟っつったら怒るけど」
出来たらそうであってほしい、と云っているように聞こえるなと屑桐は思った。
そのまま云うのを渋るように暫く視線を巡らしていると、御柳の顔に険が増した。
「…んなに云いたくない訳」
「いや、」
御柳に短く返すと、屑桐は不意に口許に手をやって俯いた。
「?」
見ると、肩が震えている。
「ちょ…、屑桐さん!?」
屑桐は笑っていた。
「何で笑うんだよ!」
些か腹立たしそうに御柳が尖った声を上げる。
「いや…、悪いな。そんなに声高に反応するとは思っていなかったから…、」
「思っていなかったから?」
「悪かった」
まだ苦笑を残した顔で屑桐は御柳は見た。
御柳の表情が変わる。
「…嘘、だった訳?」
「いや、…そういう訳ではない」
「じゃあ、」
「予定を話そう」
不機嫌さが色濃く残る御柳は、少しも屑桐の意図を理解出来なくて苛立った空気を噴出している。
「兄弟達を捨て置くことは当然無理だから24日は明るいうちからささやかにだがパーティーをやるつもりでだな、」
「うん」
「その後は…10時ぐらいにでもお前の家に上がり込んで、」
「は?誰の家?」
「お前の家だ、御柳」
御柳は展開についていけなくなりそうだった。
「そのまま泊まる。それが、」
「屑桐さんの予定?」
「あァ。俺の予定だ」
「空いてないってそういうことだったんすか?」
「あァ」
「…自分勝手過ぎねェすか」
「体質だ」
「嫌っつったらどーするつもりだったの」
「とりあえず聞かなかったことにでもしてみるか」
御柳は完全に脱力し切って机に突っ伏した。
「屑桐さんがそんな人なんて思ってなかったんすけど…」
「新しい認識をし直す必要があるようだな」
「・・・・・・」
恨めしそうに屑桐を見上げると、御柳は頬を膨らませた。
屑桐がまた笑う。
「不細工な顔だ」
「・・・屑桐さんに嫌われなかったらそれでいいもーん」
「小学生以下か」
「ふん、」
先程のような刺々しさは見事に吹っ飛び、御柳はただ子供のように拗ねた様子を見せていた。
屑桐は溜息をついて少し考えを練ってみる。
「御柳」
「・・・」
ふん、と御柳は視線だけをずらした。
子供のような態度をとれば扱いにくくなって相手を困らせることが出来るという考えかもしれなかったが、生憎子供の扱いには慣れていた。
あごに指をかけ少し上を向かせると、屑桐はそっと唇を寄せた。
「・・・・・・」
ぼんやり御柳が屑桐を見る。
「帰るぞ」
髪を撫で、がたがたと音を立てて立ち上がると、屑桐は云った。
「自分勝手」
鞄を持って帰る準備が万端になった屑桐に向けて、御柳は云い放つ。
「・・・体質だ」
先程と同じように、また屑桐は云う。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「知ってるよ。さっき聞いたもん」
口の端を吊り上げて、御柳は笑った。
続けて、屑桐と同じようにがたがたと椅子を引いて立ち上がる。
「やーな気分にした埋め合わせとかして下さいよ」
「どうしたらいい」
「俺のウチ来て下さーい」
腕に飛びつきながら、何故かもう上機嫌な御柳が云った。
「・・・行ってどうする。ままごとでもしたいか」
「どこまでも意地悪いすね。なんもかんも搾り取っちゃいますよ?」
「怖いな」
本心かどうか怪しかったが、屑桐は呟くように云った。
「んでね、クリスマスの予定っていうやつベットの中で聞かしてもらおうかな」
「さっき云った筈だが」
「もっかい聞く。だってあれ、俺の話だと思って聞いてなかったすもん」
廊下に出ても尚くっ付いている御柳を振り払うと、屑桐は少し考えるような仕草をした。
「・・・」
「・・・ん?」
「御柳、改めて云おう」
「なん、すか」
「お前の12月24日と25日を、俺にくれないか」
「・・・・・・・・・」
わざわざそんなことを真剣に云う屑桐に一瞬呆然としたが、御柳はすぐに破顔した。
「モチロン」
「よかった」
屑桐も薄く笑むと、御柳の手を握った。
「・・・いいすね、クリスマス」
「あぁ」
「楽しみです」
「あぁ」
そんなやりとりを交わして、二人はまた歩き始めた。




















END




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クリスマスですよ・・・ふふ・・・。怖
あえて何も云わないです。
クリスマスですから。笑




2005.12.23