「ねェ屑桐さん」








抱いて。








そう耳元で呟いたら、優しく抱き締めて、さらに優しくキスしてくれた。
















*  酔い狂い  *
















「ねー、キスはもういいからさー…?」
キスから進展する様子もなく、屑桐は只御柳にキスを送り続けていた。
「…」
額に軽くキス。
「屑桐さ…」
唇にもキス。
「…俺のこと嫌いになったんすかー?」
「いや」
短く否定の声は聞こえるが、一向に行為は始まりそうになかった。
「…いいし。屑桐さんがそのつもりなら、」
とん、と屑桐の肩を押してベットに横たわらせると、御柳はその上に跨がった。
「俺が乗ったげる」
ひどく扇情的な顔でそう云うと、御柳は唇をぺろりと舐めた。












シャツのボタンをゆっくりと外し、丁寧に味わうように御柳は屑桐の胸を舌でなぞった。
「…ん…」
「少しくらい興奮してきてくれてんすかー?」
返事はない。
が、御柳もそれは初めから期待していないので、大して気にも留めずに続けた。
「俺ねー、屑桐さんの胸板好きだよ。がっしりしててさー格好良い」
云って、胸に音を立ててキスを落とした。
「俺ひょろいしさー?多分贅肉つかねーかわりに筋肉もつかねーんだわ」
遠慮も躊躇もなく舐め上げると、屑桐が身じろいだのがわかって御柳は笑んだ。
「…あんたって、今までヤった誰よりも厄介」
「…」
「でもねー俺はそんな厄介なあんたが一番欲しい」
「…そうか」
云いながら、御柳は屑桐のズボンのジッパーをゆっくり下げた。
そしてそっと下着の中に手を差し込んでみれば、それが硬く反応してきていることが窺えて。
「なーんだ、ちゃんと感じてるんじゃん?」
「…これだけ触られれば、当たり前だ」
ゆっくりと上半身を起こした屑桐に、ふーんと返して、御柳は先を進めようとズボンを脱がしにかかった。
が、屑桐に腕を掴まれてそれも未遂に終わった。
「屑桐さーん?」
「…黙っていろ」
呟くように云われて、口をつぐんだ途端に口付けられて、御柳は大人しく目を瞑った。
すると唇を繋いだまま、屑桐は体勢を変えて、御柳を横抱きにしてかかえた。
「…な、に、この体勢」
「つらいか?」
「いや、別に…今んとこ平気」
長いキスに息を乱す御柳を見下ろすと、屑桐は、意思は汲み取っているだろうが別の質問をした。
「ならいいだろう」
やや強引だが御柳は抵抗しない。
する理由が見当たらないからだ。
「…なんかえろい」
「そうか」
屑桐の首に御柳が腕を絡めると、屑桐はまたそっとキスをした。
「…ん、ん……」
歯列を割って執拗に舌を絡めて。
御柳がキスに酔っている間に屑桐は、御柳のズボンに手をかけた。
ズボン越しに御柳のものを指でなぞってみると、御柳は眉根を寄せる。
ぼんやりと与えられる快楽と、あとはどんどん酸欠に近づいてきた自分とに、御柳は焦れた。
「んん、ぅ…屑桐、さ…」
ここでやっと唇を解放してやると、先程にも増して荒い呼吸の下で屑桐の名を呼んだ。
「…たくさん触られたらさー…相手、俺じゃなくても感じんの?」
「…」
屑桐は愛撫を再開した。
まるで御柳を焦らすようにゆっくりとジッパーを下げて、中心へと手を伸ばす。
先程の質問については思考の外に追い出すことにして、御柳はまた目の前の快楽を追った。
「…ん、」
ひくん、と屑桐の腕の中で御柳の肩が震えたのがわかったが、特に反応も返さずに屑桐は御柳自身をその大きな手で握り込んで扱き出した。
「ぁ、あ…、屑桐…さん、」
「御柳…」
御柳が切なげな声で自分を呼ぶのを聞きながら、屑桐はその髪にそっと口付けを落とした。
そんなのとは裏腹に、愛撫は激しさを増していて。
もう焦らしたりはしない代わりに、遠慮というものもなくなっている。
先端を執拗に責めると、御柳は呆気なく達して屑桐の手の中に精を放った。
「…早いな」
「意地悪云わないで下さいよー…?すっげー久し振りに触ってもらって、…ちょっと過敏なのかもー」
自嘲気味に云いながら、だが乱れた呼吸では上手く笑うことも出来ずに、御柳は屑桐の胸に顔を埋めた。
「しかも…屑桐さん、手加減とかしないっしょ?別にいーけど…」
云って、胸にキスを落としてみたら髪を撫でられて、目を閉じた。
「…早く、続き」
「…あぁ」
大分息の整ってきた御柳が急かすと、屑桐は手際良く御柳のズボンを下着と共に取り去った。
特に恥じ入る様子もなく御柳は只屑桐にされるままにされていて、行為が進む間、たまに思い出したように屑桐の名前を呼ぶだけだった。
「屑、桐さ……ッ」
「大丈夫か?」
「…ッへーき」
先程御柳が吐き出した精液を潤滑剤にして、屑桐は指を順に三本まで中に埋め込んだところだった。
ゆっくりとまた焦らすように動かすと、内壁がひくひくと反応を返す。
「へーき、だからさー…、屑桐さん?」
口の端を歪めて妖美な笑みを作ると、御柳は屑桐の包帯へ手をのばし、それと一緒に髪を結っているものも取ってしまった。
ぱさり、と髪が顔にかかるのも気にせず屑桐は御柳を見据える。
「…俺ー、さっきから屑桐さんの、膝の上に…、乗っかってんでしょ…?だから…あんたのが、どんどん熱、持ってきてんのも、わかってんだぜー…?」
荒い息の下で、やたらと言葉を区切りながら御柳は喋った。
そして唇をぺろりと舐めて、云う。
「早く、頂戴?」
「…まったく、」
一体主導権はどちらに在るんだかな、と云いながら一気に指を引き抜くと、御柳は小さく声を上げた。
そしてにやりと笑って。
「モチロン、…俺」
冗談とも本気ともつかない様子で云う御柳を組み敷いて、屑桐は御柳を一気に貫いた。












「あ、ァ…ッ!く、ずきり…、さ……ッ」
揺さ振られながら、御柳は甘い声で何度も屑桐の名前を呼んだ。
その度に屑桐はキスを送ってやったり、頬や額を撫でてみたりする。
先程の潤滑剤代わりに使った精液や、屑桐からの先走りで、繋がった部分からは淫猥な音がしていた。
だがそれすらも今は行為を加速させるものにしかならなくて。
「あぁ、ん、ン…ッ」
円を描くように腰を遣ってみれば、一際高い声が上がり、味を占めたように屑桐はそれを繰り返した。
「やッ、ァ、そこ…ッ」
「いいのか?」
「イィ…ッ、す、ごく……」
「素直な奴だな…」
屑桐さんこそ、と云ってやりたいところだったが、そんな余裕は塵程も無かった。
ややあって、御柳は屑桐を呼び、ぎゅっと抱き着いてから弾けた。
白濁色のそれが屑桐の腹に飛ぶが、両者気にした様子も無い。
「はぁ、は…ッ、…ふ…」
肩で息をしている御柳の唇を屑桐のそれで塞いでみると、さすがに苦しいのか、いやいやをするように首を振って、胸を押し返してきた。
「こ、殺す気…、すかー…?」
「まさか」
不適に笑ってみせたら、御柳も笑った。
「ま、相手があんたなら…腹上死もいーかも」
「…馬鹿を云え」
「それよりさー…まだ終わりじゃねぇしょ?…あんた、まだイってねーし」
返事はせずに、屑桐は御柳の足を片方だけ抱え上げた。
ぐちゅ、と厭な水音がしたが、御柳はやらしー音だと頭の隅のほうで少し考えただけだった。
「…ぁ、や、すげーなんか、…っ」
さっきより深く繋がってる気がするこの体勢、と思っている内に、また律動が始まって頭の中が真っ白になった。
「は…っ、ぁ…、あ…ん、んッ」
暫く経って、息継ぎが上手く出来なくなってきたのか、御柳の呼吸が一層乱れてきた。
思考が殆どストップしている中で、薄ぼんやりと、自分が足を持ち上げられているせいで、自分と屑桐の体が少し離れてしまったことを考えた。
この距離では、名前を呼んでもキスしてもらえないな、と。
「くず、きり、…さん…ッ?」
「ん?」
切れ切れに呼びながら手を持ち上げてみたら、その手を優しく握ってくれたので、御柳は力一杯握り返した。
といっても、弱々しいものだったが。
「ね、なまえ……、」
「何だ…?」
動きを緩めはしなかったが、御柳の声を聞こうと頭を下げた。
「名前、…よんで、」
「芭唐」
「ん…」
「芭唐…」
愛おしそうにそう呼ぶと、屑桐は御柳の腰を掴んで大きく揺さ振った。
「あァ、あ…ッ、俺、もー…ッ」
「…あぁ」
甘い悲鳴をあげたかと思ったら、御柳は白い喉を反らせて、欲を吐き出した。
そのときの締め付けで、屑桐も御柳の中に欲を解放した。
「…く…、」
「………無涯、サン」
「…」
返事はせずに、屑桐は御柳の額に口付けた。
「無涯さん」
もう一度呼んでみたら、今度は唇に口付けが降ってきて、舌を絡めとられた。
















「名前を呼ぶと、キスしてくれる優しい屑桐さんが好きです」
布団にくるまって、御柳が云った。
「…そうか」
事もなげに、屑桐は返事をする。
「名前呼んでっつったらちゃんと呼んでくれるし」
「…」
「俺の体気遣ってくれるし?」
「…当然だ」
そっけない言葉を返しながら、屑桐は御柳の髪を触っていた。
「当然、かー。なんか嬉しー」
けらけらと笑ったが、反応は無かった。
「でも、」
「…?」
「やっぱいい」
「云え。気になる」
「んー…」
真っ直ぐ自分を見てくる屑桐を横目で見てから、御柳は渋々口を開いた。
「『たくさん触られたら、俺じゃなくても感じんの?』って聞いたじゃないすか」
「…あぁ」
そういえば、という感じで屑桐は返事をする。
「そうなんすか?」
「え?」
「俺じゃなくても発情すんの?」
屑桐は押し黙ってしまった。
それが別に肯定という訳でもなさそうなので御柳はふふ、と笑った。
「だから聞くのやめたの。あんた黙るっしょ?」
「…」
「いーすよ、まじに考えてくんなくて。ホントはする筈じゃなかった質問だし?」
首を傾けて屑桐の顔を覗き込んでみるが、屑桐はふい、と視線を逸らしただけだった。
「もっと別の話しましょー?」
反応は無い。
「…」
怒らせてしまったのか、と思った。
軽蔑でもされたか。
呆れられたか。
色々考えるが、御柳と屑桐とでは思考の次元が違い過ぎるので、わかる気がまったくしない、と思って御柳は考えるのをやめた。
「…」
俯せのまま、足をぷらぷらさせて屑桐の横顔を眺めていると、不意に屑桐がこちらを向いた。
「お前だけだ」
「…え?」
「触られて、欲情するのはお前にだけだ、と」
「…うん」
変に区切る屑桐に、先を促そうと返事をする。
「そう、云ってほしいのか」
「…別に」
これは、悔し紛れでもなんでもなく。
御柳の本心だった。
はっきり、こういう答えが欲しい、という考えもなかったので質問をやめた、というのも一つの理由である。
「…誰にでも、という訳ではないがな」
「…ん」
短く返事をして、御柳は屑桐に擦り寄った。
「それで、充分」
「…」
御柳は笑う。
「私ダケを好きでいて、とか昔聞いててまじうざかったし。俺そんなうぜー奴になりたかねーし?」
「…」
「世の中見渡して、格好良い奴可愛い奴、色っぽい奴ってたったの一人や二人ぽちじゃねぇしさ。自分以外に対していかがわしー感情持っても、そりゃ仕方ねーと思うんだわ」
「…御柳、」
名を呼びながら御柳の頬に手を添えてこちらを向かせると、屑桐は御柳をじっと見据えた。
「…ん?」
御柳は、少しだけ首を傾けて屑桐を見る。
「…」
言葉を発する前に、屑桐はそっと口付けた。
「…なんすか?今のキス」
「いちいち理由がいるか?」
「だってさ、すっげー優しいんだもん。ヤってる最中のみたいなさ、」
云いかけて、御柳は口をつぐんた。
「…あぁ、そっか」
「何がだ」
自分に覆い被さってくる屑桐を見上げながら、御柳は呟いた。
「もっかいヤるからまたキスが優しかったんすね」
変なの、と付け足して、御柳は笑った。
「悪いか」
「悪くは無いす。けど、屑桐さんて飴と鞭の使い手ですね」
云い終わらない内に唇を塞がれて、御柳は大人しく屑桐の首に腕を絡めた。
「…束縛はしない。ケド、飽きるまではとことん遊びに付き合ってもらいますよ?無涯サン」
悪戯っぽく耳元で囁いてみたら、深いキスで責め立てられて、それが承諾の代わりなのかどうかはわからなかったがもう身を預けることにした。
















END




****************
何だこの味気なさは。笑
甘いんだか甘くないんだかわからん。
思いやってたり粗末に扱ってみたり、いろいろな2人の関係が大好きです。笑




2005.7.17