* 砂糖 *












「犬飼ってよかねー」
「え、あの・・・」
「背、高かー。やけんもてるんかいな。ね」
「・・・・・・」


辰羅川を待つのが面倒でそのまま部活へ独りでやってきたところへ、こちらもまた独りでいたひとつ上の先輩に、犬飼は見事に捕まってしまっていた。
その先輩というのは説明するまでもなく、猪里である。
いつも虎鉄と一緒にいて、こちらもまた辰羅川と一緒にいる時間が長い為か、あまり話したこともなかったのだが、相手はそんなことを気にする風もなく普通に接してくれる。
基本的に人見知りしない、人懐こい性格とかいうやつなのかもしれない。
「辰羅川はどうしたとー?」
「掃除してます」
「ふーん」
「先輩こそ、虎鉄先輩は・・・」
「あいつ?んー・・・、知らん。他のクラスの女子に声掛けられて、ついてった」
「・・・・・・」
告白でもされに行ったのではないだろうか、と思わないでもない犬飼は何だか居心地が悪くなってきた。
猪里も多分それはわかっているのだ。
「別に俺気にしとらんけん犬飼も気ー遣わんでよかよ?」
「あぁ・・・ハイ」
「ごめんなー、そげん云うても気になりよるなー?」
あはは、と笑う先輩を眺めながら、犬飼は不思議な人だと思った。
「先輩って・・・」
「ん?」
犬飼が云い掛けると、猪里はぴたりと笑うのをやめて犬飼を見上げた。
少し間が空く。
目を泳がせる犬飼を小首を傾げて眺めていると、そんな猪里の様子をちらりと見た犬飼がゆっくり口を開いた。
「・・・出来た人ですね」
「ん?」
云い始めてから、この言葉を云うまでの間にいろいろ考えて、いろいろなところを経由してきているのだが、口に出したのは最初と最後の少しだけだったので、猪里は更に首を傾げることとなった。
「いや・・・いいです」
「うーん」
自分の言葉がいつも足りないことも、この言葉だって云いたいことは少しも通じていないだろうこともわかっていたので、犬飼はあっさりそう云った。
猪里としても、内容が気になるところではあるが、もういいと云われてしまえばそれまでである。
「んー。面白かやつやねぇ、犬飼って。格好良いだけやないんやね」
「はぁ」
「わ!?」
曖昧に返事をしていると、急に猪里が変な声をあげた。
驚いた様子で後ろを振り返っているので犬飼も後ろを振り向いてみれば、そこには先程まで話題になっていた人物がいて。
「いーのりー。犬飼と何話してんNo?」
猪里の背中にべったりとくっついている、虎鉄。
にっこりと微笑んだ猪里は、その表情にそぐわず棘を含んだ言葉を浴びせた。
「きさんには関係なか話よ。ねー、犬飼」
「ずーるーいー。教えろYoー犬飼ー」
「・・・・・・」
「犬飼」
虎鉄と猪里に見つめられ、犬飼は一歩下がる。
「俺と犬飼の秘密。ね」
「・・・ハイ」
大して話はしていないので、これは只の虎鉄への意地悪だろうということに気付いて、犬飼はそれに乗ることにした。
自分がこの手の話に便乗できたのは珍しいな、なんて暢気に考えてしまうのが可笑しかった。
「・・・・・・」
虎鉄が、見てわかるぐらい拗ねた顔をしていた。
「虎鉄になくて、俺にもなくて、でも犬飼にはあるものの話」
「He・・・?」
「・・・・・・」
何だろう、と思った。
そんな話はしただろうか。
「なぞなぞ?」
「ばか?」
「ハイ・・・」
虎鉄は尚も猪里の背中にくっついている。
「何?」
「気になる?」
「うん」
「そんなに?」
「うん」
「なんで?」
素朴な疑問、という感じで猪里が問いかけると、虎鉄が少し驚いたような表情になった。
だが、すぐににっこり笑んで。
「当たり前じゃん。猪里のことだSi」
「・・・何が当たり前か」
「当たり前なんでSu」
何の理屈にもなっていない、と思っていると、虎鉄はそれまで以上に猪里にべったりくっついた。
どんどん自分がここにいていいのかわからなくなってくる。
「・・・上背」
「ん?」
「背の話。いろいろしよったばってん・・・主にそれ」
「あー、確かに高ぇNa。羨ましーZe」
「やろ」
「だからもてるんだろーNa。格好良いし、何気に面白いしNa」
「・・・はぁ」
つい今さっき、猪里に同じことを云われたな、と思った。
見た目などいろいろ違うが、結局は似たもの夫婦なのだ。
犬飼はそう結論付けた。
「・・・いいですね」
「ん?」
「何Ga?」
また、結論だけ口にする。
「・・・いえ」
「変なのー」
「この無口さが、女子の中ではクールで格好良い、に変換されんだよNa。そっちのほうが変Da」
「でも格好良かやんー」
「俺よRi?」
「俺より」
すっぱりと答えて、猪里はなんとか虎鉄の腕の中からするんと抜けた。
「んー」
「ん?」
「どうしたんですか?」
いきなりうなりだした猪里に、2人は視線を向ける。
「虎鉄は格好良かばってん、犬飼とはタイプが違う。そんな感じで満足かい?」
「満足ー」
「・・・・・・」
猪里が云うと、虎鉄はまた猪里にぺったりくっついた。
「あー、もう、くっつくなー。後にして」
「後でならいいNo?」
「んー・・・」
虎鉄を押しやると、猪里は犬飼を見上げた。
また居づらくなってきていた犬飼は、目をそらそうかと思ったが、やめた。
「・・・この後の虎鉄次第。ね」
にこっと笑って今度は猪里は犬飼の腕を取った。




「・・・阿呆かあいつ。また痴話喧嘩に巻き込まれてんじゃねーだろーな?」
「何だか様子が違うみたいですよ。・・・何やら犬飼くんは猪里先輩のお気に入りみたいですからね。しょっちゅう巻き込まれても仕方がないのでは・・・」
遠くの方で、助ける気のない猿野と辰羅川が犬飼を静かに見守っていた。
猪里と虎鉄の間に挟まれて、犬飼が曖昧な返事ばかりを繰り返しているというこの状況は、部活が始まるまで、後暫く続いたらしい。
















END




****************
犬飼を巻き込む話が好きみたいですね。大爆
猪里は犬飼が大好きなんですよ。(私設定)
犬飼も、猪里は嫌いじゃないと思います。
だったらいいな。笑




2005.7.6