「うちの冷蔵庫からくすねて参りましTa」
「おぉ。久し振りやん」
ことり、と目の前に置かれたそれに目を輝かせた猪里を見て、虎鉄はにっこりと笑んだ。












*  C2H5OH  *












「久し振りに飲むとやっぱうまかねー」
「あんま飲みすぎんなYo?お前たいして強かねーんだSi」
「わかっとー」








週末、猪里宅へ泊まりの約束をしていた虎鉄は部活が終わってそのままここまでやってきた。
虎鉄が猪里の下宿先へ泊まりに来るのはもう何度目になるのか到底数え切れるものではなく、その度に虎鉄は猪里の部屋に私物を置いていっている為にかどうにもこの部屋は一人暮しの部屋らしくはなくなってしまっていた。
歯ブラシから着替え、下着に至るまで様々な物を置いているので、虎鉄は猪里の部屋まで手ぶらで来ても殆ど不自由しなかった。




さて、本日は珍しく虎鉄は猪里宅へ土産を持参して来た訳なのだが。
「うわ、猪里もう顔赤ぇ!酔い回って来たのKa?」
「んー。顔熱かー」


そう、その土産というのはお酒だったりする。
未成年で一人暮しの猪里には入手が不可能なので、たまに虎鉄が家の冷蔵庫から持ってくるのを猪里はひそかに楽しみにしていたりするのだ。
虎鉄の親もそれに気付いていない訳ではなさそうだが、そこはどうやら見て見ぬふりをしてくれているらしい。


「お前今日ペース早ぇっTe!もうちょっと味わえよNaー」
「よかやん。今日の練習ばりきつかったけんね。さっさと飲んでさっさと潰れることにした」
虎鉄が一本目を空にするかしないかのうちに、猪里は既に二本目に手を掛けていた。
「んな飲み方体に悪いZe?」
「なら持ってこんかったらよかやろ」
けらけらと笑いながら、猪里はあっさりとプルタブを引いてしまっていた。
やたら笑う猪里をちらりと見て、虎鉄はすぐにテレビへと視線を戻した。
「…変に酔うなYo?」
「変に、てどげん?」
ぴたりと笑うのをやめて猪里は虎鉄の顔を下から覗き込んだ。
虎鉄は一瞬たじろいだが、すぐにまたテレビに集中しようと試みる。
この酔っ払いは、自分がそうやって上目遣いで見られるのに弱いことを充分わかった上でやっているのだ。
その証拠みたいに、虎鉄のこの様子を見てまたふにゃっと気の抜けた笑顔を作った。
「体中あっつくなってきよった…」
ぽす、と虎鉄に背を預け、手で顔をあおいだりなんかもして。
「もーやめとけYo」
「んー」
生返事をしながら猪里はまだ飲んでいた。
いつもやれ暑いだのやれ眠くなってきただの何だのと云うが、それでも猪里は飲み続けるのだったな、と虎鉄は今更ぼんやり考え始めていた。
酒癖が悪い訳では決してない。
ないのだが、猪里は好きだと云う割には弱すぎるのだった。
だから、本人がいくら平気だと云っても、体中真っ赤にしているのを見ると虎鉄としてはどうしても飲むのをやめさせたくなるのだった。




「も、まじやめとけっTe!」
自分の分の缶をテーブルに置いてから、虎鉄は猪里の手首を掴んだ。
「…」
「ぶっ倒れて困んのはお前だろうが、酔っ払い」
不満そうに、潤んだその目で虎鉄を睨むが、いとも簡単に虎鉄は猪里から缶を取り上げてしまった。
「ひどか…」
「ひどかねぇSa。んな真っ赤んなっても飲み続けるなってNo」
そう云われてあっさり諦めたのか、猪里は予め敷いてあった布団の上までのそのそと移動した。
「寝んのKa?」
「横になるだけ」
(したら寝るだろーがお前…)
心の中でひそかにツッコミを入れながら猪里の行動を見守っていると、猪里は掛け布団の上に寝転がった。
「布団被れYo」
「暑かけんこれでよか」
猪里が寝てしまうことが前提でこう声を掛けてみたら、返事も案外似たような響きがあった。
「…」
まぁいいか、と諦めた虎鉄はまたテレビに目を遣った。
最近やたらと増えたお笑い番組のひとつなのだが、まぁ面白くないこともないので先程から見続けている。
間見ていないところがあったとしても、次から次へと違う芸人が手持ちのネタを披露しているので、ドラマのようにストーリーがわからなくなったから面白味も半減した、とかいうこともなく。
ややあって、安らかな寝息が聞こえてきて、虎鉄は布団に目を遣った。
「やっぱ寝んじゃんKa」
半ば呆れた様子で虎鉄は布団のほうへ向かった。
そして猪里を起こさないように、猪里の下敷きになっている掛け布団を引っ張り出す。
それをそっとかけてやり、無防備な寝顔を覗き込んだ。
「週末だし、泊まりだSi。ちょっと期待してたんだZe?」
聞いていないとわかっていながら話し掛ける。
「…この酔っ払いMe」
悪態をついて、虎鉄はそっと触れるくらいのキスをした。
「…ま、ちょっと早ぇけど俺も寝よっかNaー」
そう云って虎鉄はいそいそと寝支度を始めた。












「…………ん…?」
猪里が目を開けると、目の前に虎鉄の背中があった。
(そーか。泊まりに…)
ぼんやりとそのことを思い出しながら猪里は手探りで時計を探した。
まだ結構暗いので夜中に違いはないのだろうが。
「二時…」
夜光塗料で薄ぼんやりと光る文字盤と針を暫く眺めてから、それをぽいっと放り出した。
そしてのんびり体を起こす。
「……」
理由は虎鉄の顔を見る為。
規則正しく呼吸を繰り返す虎鉄を起こさないように、そっと顔を覗き込んだ。
「…ごめんな?虎鉄」
聞こえていないとわかってはいるが、猪里は続けた。
「週末やし泊まりやけんね。…そういうつもりはあったとやろ?」
なんとなくそんな気がしてた、と猪里は頬を赤くしながら云った。
それからそっと虎鉄の頬に口付けを落とし、続けてそれを唇にも。
「寝とるのにごめん…」
呟いて、名残惜しそうに猪里はもう一度口付けた。
「……」
体の左側を下にして寝ている虎鉄の顔をもっとよく見ようと猪里は身を乗り出したが、シーツに足を取られてバランスを崩し、虎鉄の上に思い切りのしかかってしまった。
これで虎鉄が目を覚まさない筈もなく。
「……んー?」
虎鉄が仰向けになると、二人の顔は思い切り近くにくることとなった。
「…何、今俺襲われてんNo?」
「ば、馬鹿」
寝ぼけながらそう云ってくる虎鉄に反論したくとも、近いことをしていただけに猪里はどうしようもなかった。
そんな猪里の心情を察しているのかいないのか、虎鉄は話を逸らした。
「…今何時?」
「二時くらい」
「まだ夜中じゃねーKa…。朝まで時間は山程あんZo」
云って、虎鉄はばさりと毛布を広げて猪里と自分とにしっかり被さるようにした。
そして猪里を抱き枕のようにしっかりと抱き締めて。
「ハイ、お休みなさい」
「おやすみなさい…」
勢いに押されてつい反射的に返事してしまった猪里だったが、その心情は穏やかではなかった。
こんな密着圧着状態で、虎鉄の顔も目の前にあって、そしてその虎鉄はもう寝息を立てていて。
心臓が早鐘のような状態でいるのに目の前の人物は安らかな顔をしているのがだんだん腹が立ってきた。
「……」
そうだ、これだけ近ければ頭突きも出来る、などと物騒なことを考えていたが、猪里は急に脱力してきた。
自分はいつも目の前の人物に振り回されてばかりで、まぁいいか、という台詞でまぁよくないことまで流してしまっている気がする。
そう思い始めたら止まらなくなって、猪里は虎鉄の頬へと手を伸ばした。
「……」
普段触られることはあっても自分から触ることのない頬を撫でて。
「…虎鉄」
名前を小さく呼んでみても気付く筈もなく。
「馬鹿虎ぁー…」
悪態をついたって少しも反応しない整った顔を見ていたら。
無性に腹が立ったので、触れていたその手で猪里は虎鉄の頬を思い切りつねった。
「…ッ!?」
痛みで虎鉄が目を覚ますと、その口から抗議の言葉が出る前に猪里は自分の唇で虎鉄のそれを塞いだ。
「…ん、」
「馬鹿虎…」
すぐに離して先程の悪態を繰り返し、また口付ける。
「んん…ッ、」
「…ん、ふ…ッ」
状況が掴めずにいる虎鉄を仰向けにするよう転がして、猪里はその横から覗き込むように覆い被さった。
歯列を割り、舌を絡ませようと拙い動きで頑張っている猪里の顔を間近で眺めながら、虎鉄は大人しく猪里の首に腕を回す。
「…ッ、」
名残惜しそうにどちらからともなくゆっくりと唇を離し、虎鉄はじっと猪里を見つめた。
「…何?やっぱ俺襲われてんNo?」
「かもしれん」
そう云って猪里は虎鉄の顔を両手でそっと挟み、もう一度口付けた。
「ん、なんDa?まだ酔ってんのKa…?」
軽くあしらうつもりで虎鉄は聞いたのだが、猪里はお構いなしに虎鉄の着ているシャツのボタンに手を掛け始めた。
「ちょ、待てっTe!」
「待たん」
慌てて体を起こそうとする虎鉄をきっと睨んで猪里はボタンを全部外してしまった。
「酔っ払い抱くなんて出来ねーんだけDo?」
「酔っ払ってなか」
いつまでも酔っ払い扱いされていることに腹を立てたのか幾分言葉尻にきつさを交えながら猪里は虎鉄の膝に跨がった。
「期待はしとったとやろ?」
「週末だしNa。明日部活ねぇし泊まりだSi」
「やろ?やったら…」
「でもお前酔っ払いじゃん…」
「酔っ払ってなか!飲んでから一体どんだけ経っとーかわからんのか!?」
酔っ払いは皆自分は酔ってないと言い張るんだよ、とかいう言葉は飲み込んで、虎鉄は猪里をまたじっと見つめた。
猪里から仕掛けてくるなんて嬉しいに決まっている。
決まっているのだが、酔っ払ってやっているのだとしたら嬉しさも何割引かになるし、後ろめたさだってある。
だが猪里の云う通り、酔っ払いの戯れ事にしては飲んでから時間も経っているし、意識もはっきりしているようだし。
気持ちが逸って、この現状を肯定したがっている自分がいることにも気付いているのだが。
なんせ、久し振りだし。
猪里がこんなに乗り気なのだって滅多にないことだし。
「10の0乗Ha?」
「1」
「明智小五郎は誰の小説の主人公?」
「江戸川乱歩」
「エタノールの慣用名Ha?」
「エチルアルコール。C2H5OH」
猪里が云い終わるか終わらないかの内に、虎鉄は自分の唇を猪里の唇へと押し付けていた。
「んん、ぁ…虎鉄っ」
「ん?」
「…大好きよ」
小さく云ってぎゅっとしがみつくように抱き付くことが、どれだけの武器になるかをわかっていながらも猪里はそれを実践した。
だが、それがどれ程まで威力を発揮するかなんていうのはわかっていなかったようで。
「猪里、愛してるZe…」
そう返しながら猪里の背に回された手には熱がこもっていた。
「…ん」
こくんと頷いて猪里が素肌の虎鉄の肩口に顔を埋める。
正直云って、今自分は一体何をしているんだろうという思いに駆られていた。
先程以上に早く打っている心臓の音を煩いと思いながら、これからのことを考えた。
「…どーしたんDa?」
暫く固まって動かなかった猪里を不審に思って虎鉄が声を掛けると、猪里は驚いて顔をぱっと上げた。
「な、何ね?」
「いや、どーしたんだろなーと思っただKe。平気Ka?」
「…ッ」
虎鉄は体調のことを聞いたのだろうが、猪里にはどうしてもこのまま続けていいのかと云っているように聞こえてしまい、顔を真っ赤にしていた。
「へ、へーき。全然平気。……ぃたッ」
慌ててぽすりと虎鉄の肩へまたもたれかかると、今度は額を思い切り鎖骨にぶつけてしまった。
「だ、大丈夫か、いろいろTo」
挙動不審な猪里の顔を両手で挟んで自分のほうを向かせると、虎鉄は猪里の額へと顔を寄せた。
何せこの暗闇である。
大分目が慣れてきたとはいえ、色が判別できる訳もないので触って判断するしかない。
「大丈夫よ?虎鉄…」
「ん、いいかRa…」
云うと、虎鉄はそっと額に口付けた。
ちゅ、とわざと音がするようにされて、猪里は自分の頬がどんどん熱を持っていくのがわかった。
「くすぐった…」
「へへ、いーだRo?」
額からどんどん啄むようにキスを落としていくと、猪里は身をよじってそれから逃れようとした。
だがそれを虎鉄ががっちりと掴んで逃がさないようにする。
「もう嫌だっつってもやめねーかんNa」
「…こっちの台詞」
云わなくたってそんなつもりはない、とばかりに猪里は虎鉄の背に腕を回した。
そのまま体重を掛けてみれば、あっさり虎鉄は後ろへ体を倒し、猪里を見上げる形となった。
慣れない視点に猪里は少し戸惑ったが、すぐにいつもされているように虎鉄の鎖骨へと舌を這わせた。
「…ッ」
「くすぐっTeー」
ぺろぺろと舐めてみたり、舌で押してみたりするのだが虎鉄は笑っているだけで、猪里は少し焦った。
悔しくて歯を立ててみたりもして。
「…痕つけてーNo?」
「…」
「んなことしなくたって俺はとっくに猪里ちゃんだけのモノだZeー」
冗談めかして云う虎鉄に少し腹を立てたのと、図星を突かれたこともあいまって、猪里は言葉で反撃するのを諦めて体をどんどん下のほうへずらしていった。
「お前、まさかそこまですんのKa?」
「したら悪かかね」
「いYa…」
嫌がっている訳ではないのだろうが、虎鉄は少し驚いてまた上半身を起こした。
お構いなしに猪里は虎鉄自身に、ズボンの布越しに口付けた。
「…ッ猪里…」
すぐに主導権が返ってくるものだと思っていた虎鉄は猪里の行動に驚かない筈もなく、だが嬉しさが明らかに勝っているので止められる訳がなく。
そうこうしている間に猪里は虎鉄のズボンをずり下げで下着にも手を掛けていた。
ジャージのズボンだからジッパーの類いもなく、何だかやりづらいと心の中で愚痴りながらも、猪里は眼前に晒された虎鉄自身に息を飲んだ。
「…んな見られたら流石に恥ずかしーんだけDo?」
「せっせからしか!いつも俺にはしとーやろ!」
一喝して虎鉄を黙らせると、猪里はまず先端をぺろりと舐めた。
「…ッ」
ぴくりと反応する虎鉄を見て、今度は良さそうだと思いながら、猪里は今度はそれを根本から舐め上げた。
「…いのり…、」
虎鉄が自分にするのを思い出しながら、両手を添えてどんどん熱と容量を増していくそれを懸命に舐めた。
「…気持ち良か?」
「サイコーにNa…ッ」
上目遣いで聞いてくる猪里に掠れた声で返すと、虎鉄は口の端を吊り上げた。
猪里の行為により虎鉄からどんどん余裕というものが奪われていっていることが見て取れた。
最後に先端に舌を押し付けてみたらもう耐えられる筈もなく。
「猪里、も…ッ」
「…ん」
「ちょ…ッ猪里!?」
達するそのときに猪里は虎鉄自身を軽く手で締めたのだ。
おかげで半分程しか吐き出せなかったのだが、不満よりまず驚きがくる。
「なにすんだ、猪里」
「つらかろーや?」
意地悪ぽく笑って、押さえたままで猪里は体を起こした。
「こんなんドコで覚えてきたんだYo…?」
「お前に決まっとーやん」
「ぅあ…ッ」
先端を指の腹で擦ると虎鉄は快感に顔を顰めて声を上げた。
「…ッコノヤロ」
「わっ!?」
切羽詰まった声で呟くと、虎鉄は猪里の頭を引っつかんでぐいっと押し下げた。そのせいで一瞬力の緩んだ腕を振り払い、その顔めがけて残り半分を吐精した。
「ひゃ…!?」
「ザマーみやがRe」
呆然としている猪里を見て虎鉄は喉の奥でくつくつと笑った。
「最悪…」
「お互い様だRo?」
ぶすりとし出した猪里の顔を引き寄せて、虎鉄はその顔を舐め始めた。
「こらっ馬鹿虎…ッ」
「いーからじっとしてろっTe。きれいにしてやるかRa」
「んん…」
向かい合って、上背の差もあり虎鉄を少し見上げている猪里だったが、急に腕を掴まれたかと思ったらそのまま視界がぐるんと回転してしまった。
というのも、ただ虎鉄が猪里を押し倒しただけなのだが。
「な…ッ」
「こっからは俺がやってイイよNa?」
「良い訳が……ぁッ」
反論も聞かずに虎鉄は手際良く猪里のズボンと下着を取り去ってしまった。
「上だけ残ってんのって何かえろくさくNeぇ?」
「阿保!」
云って蹴ってみるが、虎鉄はびくともせず。
「んな余裕がいつまでもつんだかね」
「ふん、いつまででも平気たい」
自信はないと云い切って良さそうなものだったが、そこは売り言葉に買い言葉ということで。
「ふーん、そうかYo」
「わ…!?」
適当に言葉を返すと、虎鉄はいきなり猪里の足を大きく開かせた。
いきなりでなくとも恥ずかしくて仕方のないことをされてしまい、猪里は顔を真っ赤にする。
「は、離さんね!」
「やDa」
そして中心へ顔を寄せ、まずは猪里自身へ口付けを送る。
「ぁ……ッ」
そこまではまだよかったのだが。
次に虎鉄が蕾へとキスを落とし始めると、猪里は抵抗のつもりか、震え始めた足をばたつかせた。
「ん、ゃ、やめんね虎鉄…ッ」
「いてて…大人しくしねぇか、猪里」
「あぁ…ッ、ゃ…ぁッ」
猪里の抵抗も虚しく、唾液を乗せた舌でその場所を突くように舐められるともう力も萎え切ってしまった。
「はん……ん、も…ッ最あ…く…ッ」
精一杯悪態を突いてみるのだが、そんな甘い声で云っても虎鉄を煽るだけだった。
「最高の間違いじゃねーNo?」
冗談ぽく笑うと、虎鉄は舌を中に侵入させ始めた。
「あッ、ゃ…ッ虎鉄…!」
びくりと背を反らせる猪里の反応を楽しそうに眺めながら、虎鉄はそこを執拗に攻撃した。
「ふぁ、ぁ…ッん、やあぁ…ッ!」
「んな嫌Ka?」
ぱっと顔を上げて涙の滲んだ猪里の瞳を覗き込んでみると、きっと睨まれてしまい、虎鉄は苦笑いをした。
「怖ぇNa。そーかそんな嫌Ka」
「…!」
そう呟きながらまた猪里の足を抱え上げる虎鉄に、猪里は息を飲んだ。
「や…まさか」
「そのまさか」
口の端を吊り上げて、虎鉄は自身を、先程自分の舌で慣らしただけの猪里の入口へと押し当てた。
「いや…ッまだ早…」
「あれも駄目これも駄目って我が儘ばっかだNa?」
「お前のやり方が悪…………あああぁッ!」
半分ほど侵入してきた虎鉄による痛みで、猪里は殆ど悲鳴のような嬌声を上げた。
「いや、痛…ッ!も、抜け……ッ」
ぽろぽろと涙を流す猪里を見ていたら少しは可哀相だと思う心も沸いてきたのか虎鉄は一旦動きを止めた。
「大丈夫か…て聞くまでもねーKa」
掠れた声で呟いて、自嘲的に笑ってみる。
虎鉄も強烈な締め付けを食らっていて実は辛いところなのだが、こんな風に泣かれては続けられないというもので。
「やっぱ早すぎたKa?いっぺん抜くKa…」
「ばか虎…ッ」
「ん?」
そう考えていたところで不意に下から両手が伸びてきた。
何だと思って頭を下げてみれば、その両手がしがみつくように虎鉄の首に回されて。
「猪里…?」
「…ッ平気やなかばってん…続け」
額に汗をかき、苦しそうな表情で云われ、虎鉄は戸惑ったが、OKサインが出たとあれば、と思うともう止まらなかった。
「仰せのままNi…」
ぐい、ときついままのそこに奥まで埋め込んでしまうと、耳元で先程にも増して苦しそうな息遣いが聞こえた。
「ゆっくり息吐いて…力抜いTe」
「んん…っ」
すぐに思う通りにはいかないものの、幾分か緩くなった締め付けに虎鉄は一息つくと、啄むようなキスを送った。
だが猪里にはそれを大人しく受け入れているだけの余裕しかなくて。
とめどなく目尻を伝って落ちる涙がその痛々しさを強調しているかのようだった。
「動いて…平気Ka?」
猪里がぎゅっと腕に力を込めたのを確認して、虎鉄は小さく律動を始めた。
「く…ッ、…ぁ……あ…っ」
揺れに合わせて猪里から声が漏れたが、まだ決していろが交じっている訳ではなくて。
「本当に平気Ka…?」
「…、……ッ」
「ん?」
「阿保……聞くな…っ」
消え入りそうな返答に優しく耳を寄せてみれば、意外と強気な口調で言葉が飛んできた。
だが内容はどうやら痛くて堪らないと云っているに違いなくて。
「すぐ気持ち良くしてやっかRa…」
「ッ阿保…!」
目の端に溜まった涙を舐め取ってやり、虎鉄が大きく腰を揺らし始めると、猪里は弱々しく虎鉄にしがみついて痛みをやり過ごしていた。
「ここ…だっけKa?」
数回それを繰り返している内に虎鉄は猪里のイイところを探り当てたらしく、だんだんと苦しげな吐息にも熱がこもってきたように思えた。
「どーDa?」
「…っあ…ッん…、ぁ…ゃ…っ」
「イヤKa?」
動きを緩めずに耳元で聞いてみれば、猪里はかぶりを振った。
「…よかっTa」
ほっと息をついて、虎鉄はそこだけを重点的に突く。
「あ、あっ…ぁん、…んッ」
「イイ、Ka?」
「んん…ッ」
まだ痛みも残ってはいるものの、殆どが快楽へと変化してしまった今となっては返事をすることすらままならなくなっていて。
「この調子だと…良さそうだNa?」
先程まで痛みで萎えてしまっていた猪里自身が、天を向いて先走りで自身を濡らしているのを見て、虎鉄は笑む。
それに触れてやれば、愛しい体は大きく反応を返し。
「あぁっ、は…ん…ッこてつ……ッ!」
「あぁ…、俺ももー限界…ッ」
「ん…!」
合図のように額へ口付けると、虎鉄は猪里自身をぎゅっと握り、吐精を促した。
「あ、ん…ッ!…ああぁ……ッ!」
殆ど擦れた声で一際高い嬌声を上げると、猪里は虎鉄の手の中に精を吐き出した。
そしてそれとほぼ同時に、虎鉄も猪里の最奥で達した。
「はぁ…、ぁ…」
「…大丈夫Ka?」
くたりと布団に沈み込み、息を整えようと目を瞑っている猪里の顔を覗き込んで、虎鉄は聞いた。
「……へーきよ…」
明らかに平気ではないだろう、と思いながらも、可愛い恋人へと小さくキスを送る。
「…もっかい」
「いくらでもしてやんZeー」
足りない、とキスをねだる猪里に何度も何度も甘いキスを送り、二人で抱き合ったまままどろんだ。












「まだ?」
「まーDa。あとちょっToー」
「はーやーくー」
「はーいはいはい」
布団の上に俯せに寝転び、足をぱたぱたと動かして、猪里は虎鉄を急かした。
当の虎鉄はといえば、エプロンを付けてキッチンで先程から世話しなく動き回っている。
「あー!早う火ぃ止めんねッ焦げよる!」
「うWaっ」
猪里の鋭い声が飛んで来て、虎鉄は慌てて鍋の火を止める。
「よーし完成!さー起きろ猪里」
「わーい」
満面の笑みを浮かべて完成した料理を眺めると、虎鉄はそれを丁寧に皿に盛ってテーブルに並べ始めた。
「メニューは何?」
「こらこらこらッ服を着なさいNa」
昨晩は上に着ていたものだけ汚して着れなくしてしまった為、汚れていないものだけ身につけてみたらこうなった、といった感じで起きていってみたら、虎鉄がさいばしを置いてぱたぱたと小走りでやってきた。
「んな格好してっと腹下すZo?」
「平気よへーき」
箪笥から適当にシャツを取り出すと、それを猪里の肩にかけてやり。
「母親のごたると…」
「ハイハイ。あ、メニューは白米、鯵の煮付けの缶詰、卵焼き、味噌汁、納豆だかんNa」
「美味そー」
「ぜってー美味ぇZoー」
シャツのボタンを留めてやりながら、虎鉄は朝食のメニューを説明する。
「…ばりうま」
着衣を終え席に着き、まず卵焼きを口に放り込んで一言。
「だRoー!虎鉄様の手にかかれば何でも美味くなんだZe」
「あはは、阿保や」
ぱくぱくと箸を進めながら猪里は上機嫌で笑っていた。
「あーんてしてやろっKa。ほらあーん」
「ばーか」
箸をで挟んだ卵焼きを差し出す虎鉄に舌を出してみせると、猪里は自分の卵焼きに手を付けた。
「あーあー。俺ってばさぁ、ずっと猪里に振り回されてる感じがすRu」
「…は?」


料理を覚えようと思ったのだって、食べることが大好きな猪里の為だし。

マイエプロンなんか買ってしまったのだってそのせいで。

他人の体温を感じていられることが幸せだと思えるようになったのも、猪里とくっついてることが余りにも心地良かったからだし。

キスが前より好きになったのも、猪里とするのがいつも甘くて溶けそうだから。


冷蔵庫から缶酎ハイをぱくることを覚えたのだって猪里のせい。


「惚れた弱みってヤツだよNa」
「阿保…」
猪里はおかずをつまむ手を休めて俯いた。
「い…猪里?」
何かまずいことでも云ってしまっただろうかと思って虎鉄は顔を覗き込む。




悔しい。
いつも思考は似たり寄ったりで、しかも口にするのは相手のほうがいつも早い。




猪里は顔をぱっと上げた。


「阿保。それはお互い様」
「え?それっTe…」




だとしたら、きっとこれだって一緒の筈。


振り回された分振り回してやりたいし、我が儘だって聞いてほしい。


自分のほうがきっと好きだって気持ちは大きいんだから、と思い知らせてやりたい。








「まぁそういうことよ」





不意ににっこりと笑ってみせたら、虎鉄が頬を僅かに赤くしたのを見て、してやったりと思った。




















END




******************

げろ甘い。
そして長い。
満足してるようであんまりしてないけど、書き直す余裕もない。爆
えろって難しいですよね・・・。


虎鉄が押せば猪里は引き、
猪里が押せば虎鉄は引く。
そんな関係がいいなーみたいな。笑

でもこの小説は何かがおかしい。大爆








2005.5.4