僕が全部悪いんです。








* 
醤油とソース *
















「牛尾さんと喧嘩でもしたんKa、蛇神さん」
「・・・あ、あぁ。何故わかった」
まだ制服のままで部室のベンチに腰掛けていた蛇神に、既にユニフォームに着替え終わっている虎鉄が話しかけた。
突然その話題をふられて蛇神は少々驚いた様子である。
「そりゃわかりますって、牛尾さんの態度見てれBa。謝ったほうがいいですYo。物凄く禍々しいオーラ出てますもん、牛尾さんかRa。1年生なんか完全にびびっちゃってまSu」
「・・・・・・」
「トンボ振り回してるのも、今日は怖くて怖くて敵いませんYo。ホント、どうにかして下さい」
「・・・わかった也」
そう云ってようやく重い腰を上げた蛇神の後姿を、虎鉄は手を振って見送った。












ことの始まりは昼休み。
屋上で、一緒に昼食を摂っていたときだ。
「あ、卵焼きだ。貰って良い?」
「あぁ」
「ん、美味しい。じゃあ代わりに僕のからあげをあげるよ」
「・・・ん、美味い也」
相変わらずの熱々っぷりをまわりに見せ付けながら、2人はお弁当を摘んでいた。
その間、野球の話、授業の話、好きな曲の話、嫌いな先生の話、と高校生らしい話題をぽつりぽつりと続けているうちに、この話題へと行き着いてしまったのだった。
「そうだ、蛇神くんは目玉焼きに何かけるの?この間一宮くんとそのことで話していたら、一宮くんは塩胡椒をかけるって云うんだよ。ありえないよね」
「そうだな。目玉焼きには、やはり醤油也」
「へ・・・?」
蛇神の一言で、牛尾は固まってしまった。
口へ運ぼうと、箸で挟んでいたウインナーもぽろりと弁当の中に落ちる。
「目玉焼きにはソースだろう?」
「醤油也」
「だってさ、目玉焼きは洋食だよ?」
「いや、和食也」
だんだん雲行きが怪しくなってきたが、それでも会話は続く。
「トーストに乗せたりするだろう?」
「我はそんなことをしたことは無い。目玉焼きは醤油をかけて、そのまま食べるのが一番也」
「・・・・・・」
牛尾は黙って先程落としたウインナーを口に放り込み、咀嚼し出した。
「・・・牛尾?」
「こんなところで意見が合わないとはね」
「・・・?」
「君は和食が好き。僕は洋食が好き。そういう好き嫌いは別にいいんだけど、同じものに対して意見がこんな違っちゃうってどうだろう」
「牛尾、」
「目玉焼きは、洋食。だからソース」
「・・・目玉焼きは和食也。故に醤油をかける」












「嘘だRo!?」
思い切り叫ぶようにそう云ってから、虎鉄はつまづいて転びそうになった。
「ホントですよーマリファナ先輩。ヤクが切れたからってふらつかないで下さい」
そんな虎鉄を横目で見ながら、猿野はいやな笑いを浮かべた。
「マリファナ云うNa!今のはびっくりしすぎてけっつまづいたダケDa。つかマジで牛尾さんと蛇神さんがそんなことで喧嘩すんのかYo」
「みたいですよ。野球では天才的な才能を発揮してんのに、喧嘩の内容はスゴイ幼稚ですよね」
「だNa。新婚さんの痴話喧嘩みTe−。・・・お前何でこんな詳しく知ってんDa」
「企業秘密ですぅ」
語尾にハートがつきそうな勢いでそう云う猿野を静かに無視し、虎鉄はグラウンドを見た。
そこでは、先程まで殺気を飛ばしながらトンボを振り回していた人物が手を止めて、誰かと話している。
「あれHa・・・」








「何かあったとですか?」
「猪里くん」
牛尾が丁度トンボ振りを終えたときに、猪里はこの殺気を全く無視したかのように牛尾の許へと近寄っていった。
「さっきから、様子がおかしかごたる見えます」
「そうかな?・・・・・・」
「蛇神さんと、喧嘩でもしたとですか?」
「・・・やっぱりわかるかい」
そう云って一度猪里から目をはなし、牛尾は少し考えるような仕種をした。
「悪いのは僕なんだけどね。何だか意地を張ってしまって。くだらないことでいろいろ云ってしまったから、何だか謝りづらいし」
情けないね、と云って牛尾は笑った。
「わかります」
「え?」
「俺もよくつまらんことで喧嘩します。相手が悪いんが明らかなときは、相手が謝ってくるまでとことん待ちます。ばってん、自分が悪いっちゅうんが明らかなときは、さっさと謝っとくもんですと。長引けば長引く程、謝りづらくもなります」
自分のことを思い出しているのか、猪里は照れくさそうにそう云った。
「じゃあ蛇神くんも、僕が悪いって思ってるから謝ってこないのかなぁ」
「蛇神さんも今きっと、どうやって謝ろうか考えとるとですよ」
云って、猪里は笑った。








「太陽みたいですね・・・」
「ん?猪里ちゃんKa?」
「そうっすよ」
冗談で云ってみただけだった虎鉄は、猿野の返事に大いに驚いた。
「おっお前!猪里ちゃんは俺のモンだかんNa!」
「うっさいですね・・・きょどんないで下さいよ。なんでそんないっぱいいっぱいなんすか・・・」
「うっSe!てめーはイケメン犬といちゃついてろYa!」
「さては・・・先輩らも喧嘩しました?」
「んな訳あるか!俺らは万年仲良くやってんだYo。てめーらと一緒にすんNa」
「俺らは本気で喧嘩する以前にまともな会話自体少ないですから」
にっこり笑って云う猿野に呆気に取られて押し黙ると、虎鉄はまた猪里へと視線を戻した。
「・・・お前の荒み系な話はいいんだYo。俺のもNa」
「・・・すさみけい?」
「スルーしろ、スルー」
「・・・大根先輩、スゴイですねー。キャプテン癒されてる感じですよ」
「猪里ちゃんだしNa」
「意味がわかりません」
「・・・・・・あ、見ろよ猿野」
「え?」




「・・・・・・蛇神くん」
牛尾はゆっくりと顔を上げて、歩み寄ってくる蛇神を見た。
猪里も蛇神を振り返る。
そして蛇神が傍まで来たところで。
「・・・外しますね、俺」
にこっと笑って猪里はいい、丁度良く見つけた虎鉄と猿野の元へ向かった。
「あ、いの・・・」
「牛尾」
いきなり2人きりにされてうろたえる牛尾の言葉を遮り、蛇神はその名を呼ぶ。
「・・・・・・」
「・・・・・・すまん」
牛尾がどうしようかと考えているうちに、いきなり蛇神が頭を下げた。
「へ・・・蛇神くん?」
「昼のことを怒っているのだろう?・・・つまらぬ意地を張ってしまって、すまなかった」
「そんな!怒ってなんか・・・。あ、頭を上げてよ」
「・・・・・・」
蛇神も驚いた様子で頭を上げた。
表情に乏しい蛇神ではあるが、手に取るように感情が読み取れるようだった。
「えーと・・・ごめんね?僕の方こそ・・・。全然怒ってるとかそんなんじゃなくって、こんなことで気まずくさせてしまった自分が嫌だというか・・・さ。何て云ったらいいんだろう・・・」
苦笑いしながら牛尾が話していると、蛇神が不意に微笑んだ。
「・・・お主の性格から考えれば、あれで本気で怒るなどということは考えられなんだというのにな・・・」
「僕も・・・冷静な判断力とか失ってたのかも・・・」








「この様子やと、喧嘩は初めてかいなね」
「だNa」
「でも多分、あの2人だといつまで経ってもあんな喧嘩してそうですけどね」
牛尾と蛇神を遠目に見つめながら、猪里、虎鉄、猿野は会話していた。
「ほらな、俺ら喧嘩なんてしてねーだRo?」
「ん?喧嘩?」
「ちぇーつまんねーっすねー」
何が何だかわからないでいる猪里は気にせずに、猿野は口を尖らせた。
「・・・?・・・・・・あ、犬飼や」
「犬飼?どKo?」
「・・・・・・」
「ほら、あっこ」
指を指している猪里を無視するように、猿野はその場から逃げ出そうとした。
「おーい、いーぬかーい」
そんな猿野の腕を抱き込むようにひっつかまえて、猪里は犬飼を呼ぶ。
「な・・・ッ何するんですか大根先輩!」
「よかやん。犬飼ってさー、背高いし格好云いし良い奴やし。どこが嫌なん?」
「・・・ッ」
「俺にもそんなこと云ってくれたことないのNiー!」
「あ、来た来た。あんさー、犬飼?あの木にさーボール引っかかったけん肩車してー」
「無視かよ・・・。てか、そんくらい俺がしてやるっTe!」
「きさんじゃ上背が足らん。それにいちいちうっさいからやや」
「つーか!俺いなくていいじゃないすか!放して下さいよー!」
「犬飼!猪里に肩車してやんなくていーからNa!」
「あーもーせからしか!犬飼に余計なこと云うんやなかー!」
「あ、あのー・・・」
「あっち行きー。女マネ口説いてき」
「んNa・・・ッ!?何Tuー・・・!」
「おい、犬飼・・・ッ」
「・・・ん?」
「・・・俺達、痴話喧嘩に・・・巻き込まれてねぇか」
「・・・奇遇だな。俺も同じことを考えてたところだ」
「・・・・・・腕放してくんねーすかね、大根先輩・・・」




「俺は猪里ちゃん一筋なんだYo!」

「せからしかねー。寝言は寝てから云い」




















END




****************
謎。
超謎。
最後の方もう蛇牛じゃねーし。大爆




2005.7.6