1ヶ月がこんなに長いなんて、知らなかった。




アナタの “1ヶ月” も、――――――同じくらいの長さだったらいいのに。








*  初恋、ではあるまいし  *








1ヶ月、会えなかった。
世の中こんなに困っているひとがいるのか、しかもまさにたった今この時期集中的に。
成歩堂は何度もそう思った。思って、ゴドーを想った。
最後に声を聞いたのは、一昨日の夜だった。
一昨日の深夜成歩堂がふらふらと家までたどり着き、熱いシャワーで汗と疲労を洗い流して缶ビール片手にリビングまで行くと、置いてあった携帯電話のディスプレイが、着信があったことを知らせようとぴかぴか光っていた。
ゴドーさん、と何の根拠もないのに胸が跳ねて、プルタブを引いたがまだ口をつけていない缶を勢いよく置いた。
中のビールが飛び出して手に掛かり、少し焦ったが先に携帯を手に取った。
「…ゴドーさん……」
手に掛かったビールを舐めながらその名を呟く。きっとゴドーが見ていたら、行儀が悪いとからかって、丁寧に拭いてくれるだろう。
期待通り、ゴドーからの着信であった。かかってきたのは3分くらい前だ。
携帯に充電器を差し込んで、すぐにかけ直した。
呼び出しが、思っていたより長い。4コール、5コール、まだ続く。
改めてビールの缶に口をつけて、待った。味があまりわからない。
「――――まるほどう?」
「ゴ、ゴドーさん」
どもってしまった。少し気恥ずかしくなって、ゴドーが口を開く前に成歩堂が言葉を発した。
「あ、さっき、風呂入ってたんで気付かなかった……です」
「…ああ」
「………すみません」
ふ、と電話の向こうでゴドーが吹き出すのがわかった。
「な」
「何をそんなに弱気なんだい、コネコちゃん?」
くつくつと喉の奥で笑っているのまで伝わってくる。
「ゴ、ゴドーさん!」
「悪い、あまりにも…」
「あ、あまりにも、何ですか」
「いや、いい」
電話の向こうにいるゴドーが、最上級で笑っているのがわかる。自分のように大口を開けてゲラゲラと笑うことがないゴドーにしてみれば、これでも随分相好を崩している。見ていないが、それくらいわかる。
「――――…どうだ、まるほどう。仕事は?」
一頻り笑い終えるのをいたたまれない気持ちで待っていると、気の済んだゴドーがそう切り出した。
すこしどきりとして、成歩堂は口を開く。
「そろそろ、カタがつきます。いえ、カタをつけます。なかなか示談が上手くいかないんですけど…」
「相当手強い相手なんだな」
「いいえ、相手は示談に合意しています。…納得していないのは、クライアント、です」
「…なんだと?」
相手とは意見が合っているのにクライアントとは合わない。一体どういうことかとゴドーは訝る。
「クライアントは、“勝つ”ことに非常に強い拘りを持っています。勝って相手を叩きのめすことが、将来の幸せに繋がると思っています。…けれど、相手はかなりいい条件での示談を提示しています。こちらに有利なのは、素人にだってわかるはずです。ただ得られないのは、裁判による勝訴だけだと…僕は思います。応じることが、金銭的にも体面的にも現実的な『将来の幸せ』です。……裁判なんかしたって、お互いに傷付いて、疲れて、後悔するだけです。それを……、…わかって、もらえません」
「……」
成歩堂はいちいち個人に深入りしすぎる。ゴドーはそう思う。
相手がそうしたいならそうしてやればいいではないか。相手がそれで一度満足し、最終的に後悔するのだとしてもそれは本人の問題で、その頃にはきっともう弁護士の手から離れてしまっているはずだ。依頼人は、その後悔を弁護士のせいにはしないだろう。
もしゴドーなら依頼人に従って裁判に持ち込み、依頼人の満足する勝訴を得る。依頼人の気の済むまで、相手を叩きのめしてやろうと思う。
もし勝訴への執念が、法律的な知識の不足故の暴走であるならそれとなく止めてやるが、これは気持ちの問題だとか、気持ちの決着だとか、そんなふうに言われたらゴドーはもう止めない。
親身になるのと、ただ深入りするのとは違う。熱意でもない。
そのような感情の共有は、ただむやみに成歩堂が傷付くだけだ。
そんな成歩堂を見ているのは正直辛いが、だがだからこそ成歩堂なのだと思う。だから好きなのだと思う。
「まあ…概要もわからねえから何も言えねえけどな」
ゴドーとしては殆ど結論のような言葉で、話を切り出した。
「まあ、元気出しな、コネコちゃん。元気と明るさ、それが取り柄だろ。その案件が済んだら終わりか?」
「ああ、まあ…雑務が残ってますけど、その案件さえ終われば落ち着きます」
「そうか。なら思う存分力出し切って、頑張りな。頑張ったら、その後でめいっぱい甘やかしてやるぜ」
ゴドーの精一杯の優しさを感じて、成歩堂の顔が綻んだ。
「ゴドーさんは、どうですか?」
「俺も、同じようなもんさ。あと2件案件が残ってるが、そうややこしい話じゃない。あとはほとんど事務的な手続きさえ終われば、体が空く」
「じゃあ…」
「嬉しそうな声、出すじゃねえか」
くく、とゴドーは喉の奥で笑う。
そんなにあからさまだったかと、成歩堂は頬が熱くなるのを感じた。
「会おうぜ。終わったら」
「……」
会おう、と言われただけで涙が出るほど嬉しくなった。
「おいおい、声も出ないほど嫌なのかい、コネコちゃん?」
「な…っなんでそんなこと言うんですか!会いたいですよ!会いたかったですよ、ずっと!!」
殆ど泣きながら叫ぶように言うと、またゴドーが電話の向こうで笑った。
「嬉しいな、そんなに熱烈に求められると…今すぐにでも飛んで行きたくなる」
「…なら来てもいいですよ。今ならすっごくいいサービスつきで、大歓迎しちゃいます。コーヒーだって特上成歩堂ブレンド淹れちゃいますよ」
そう言いながらも仕事を疎かには出来ず、結局今すぐには会えないことを茶化して、成歩堂はいつもなら言わないようなことを言って笑った。
来ないことはわかっている、でも、もし、本当にもしも来るのなら、してやってもいい。どんなサービスだって。成歩堂はそう思う。
「…カワイイコネコが待ってると思うと、徹夜してでも頑張っちゃうぜ」
「徹夜はやめてください。倒れますから、ゴドーさん」
はは、と笑って成歩堂はやんわりと無理をしないよう牽制をかけた。
「ま、のんびりやったって明後日には終わるだろうさ。せいぜい身体キレイに洗って待ってなカワイコちゃんよ」
「誰がカワイコちゃんですか、もう…」
ゴドーのクサい台詞は、聞いているこっちがいちいち恥ずかしくなる。
「……最短で明後日ぐらい、ですね。あともうひとふんばり、頑張ります」
「あともうひとふんばり、は俺に会うまで残しておいてもらわないと困るぜ、まるほどう。ゆっくり休むのは、俺と頑張ってからでも遅くないだろう?」
「このひとは……」
こめかみに手を当てて、しかし誰も見ていないので少しニヤけて、成歩堂は呟いた。








そう、それが一昨日の夜。
「『ゆっくり休むのは、俺と頑張ってからでも遅くないだろう?』…って、それを言ったのは誰ですか?」
苦笑しながらそう言って、成歩堂はベッドにゆっくり腰掛けた。






昨日の昼ごろ、示談に決着がついた。
結局依頼人は少し不服そうに、だが納得してくれた。諦めた、と言ったほうが近いのかもしれない。
なんとなく双方に後味の悪い案件だった。
それから午前いっぱいは書類仕事で事務所に篭り、午後は裁判所をはしごした。
移動の電車の中では何度か寝過ごしそうになり、その度に疲れを再確認するのだが、あと少しだと自分を奮い立たせ、何とか頑張った。
そして7時頃やっとひと段落つき、あえて所長室ではなく応接間で真宵が淹れてくれたコーヒーをゆっくりすすり、真宵と他愛のない話をし始めたところで、ゴドーから電話がかかってきた。どこかで見ているのではないかと思えるようなタイミングだった。
電話を掛けてきたゴドーはもう事務所の下まで来ているところで、後を真宵に任せて慌てて出てきた成歩堂に、ゴドーは極上の笑みを浮かべた。仮面をつけていてもわかるそのゴドーの表情の変化に成歩堂は嬉しくなって、再会の嬉しさと相俟って、泣き笑いのような表情を浮かべた。
その後、外食をするか、ゴドーの自宅で何か作るかという話になり、ゴドーは作るのが面倒だからと外食を選び、成歩堂が矢張とでは絶対に行かないような類の高級そうなレストランを指定した。美味しいものは食べたいが堅苦しいのは嫌だと少しむずがるような表情を浮かべると、今度はいかにも雰囲気のある店を提案してきた。デートスポットのようなその店にまたしても成歩堂が眉根を寄せるが、ゴドーがそれとなくこの店はビールの種類が豊富らしいと示すと俄然乗り気になり、事務所からさほど遠くないその店にいそいそと向かうこととなった。ビールの味など1杯目以降はよくわからなくなっているくせに。そうゴドーが笑ったのを、成歩堂は知らない。
成歩堂はよく食べて、よく飲んで、よく笑った。そんな成歩堂を見てゴドーも笑った。
疲れのせいで酔いが回るのも早く、成歩堂はいつもより少なめの酒量でもう足にきていた。ゴドーも少し酔った。酔っていることが何故だかひどく楽しかった。
酔っ払い2人はふらふらとゴドーの部屋に雪崩れ込み、成歩堂は久しぶりにやってきたゴドーの部屋にご満悦で、部屋に踏み込んだ瞬間からずっとにこにこしていた。もとより酔っているので、表情がいつもの3倍ぐらい正直なのである。
珍しく足元が怪しい、変態オヤジと化したゴドーをベッドに放ると、成歩堂はさっさとシャワーを浴びに行った。こんなに酔ってちゃ今日はもうきっと何も出来ないだろうから、くっついて寝るだけだと思いながら、しかし少し期待している自分が恥ずかしくなって、頬をぴしゃりと叩いた。少し痛かった。




そして、今である。
シャワーから上がり、放ってきたゴドーがどうしているかと様子を見に行くと、静かに寝息を立てていたのである。
「…珍しい。もしかして、タヌキ…」
そんなことを疑いながら、成歩堂はそろそろと顔を覗き込みに行った。不用意に近寄ったところをベッドに引きずり込まれるのではなかろうかと少しどきどきしながら。
だが、特に何もアクションはなかった。どうやら本当に寝ているらしい。
「疲れてたんだなあ…。ほんとに徹夜なんかしなかったでしょうね?」
言って、ネクタイを解いてやった。自分は飲んでいるときにもう緩めてしまっていたのに、ゴドーは律儀に着衣を乱さずに行儀よく飲み食いしていた。
ネクタイの次には、ベストを脱がしてやろうかと思う。しわになっては後々面倒だ。スラックスだってそうだ。出来ればシャツだってもっと違うゆったりしたものに着替えさせてやりたい。
だが自分よりも体格のいい、しかも眠っている人間の着替えはとても面倒で、大変だ。しかも起こしてしまっては可哀想である。
なのでベストの前を肌蹴るだけに留めて、成歩堂も隣に寝転んだ。
期待していなかったと言えば嘘なのだが、こうして並んで寝るだけでも嬉しいことは嬉しい。
仰向けですうすうと眠るゴドーの顔を、ごろんとうつ伏せになり、両肘で状態を少し持ち上げ、覗き込んだ。
「これまでつけっぱなしで…」
くすりと笑って、成歩堂は仮面を外してやった。こんなものまでつけっぱしで寝るとは、本当に疲れていたのだろうと思う。
この際だ、と成歩堂はゴドーに口付けた。
「ゴチソーサマです」
いつもと違って、今だけは自分が優位な気がして、成歩堂は少し嬉しくなった。そしてもう一度口付ける。
「…ん、」
ゴドーが喉の奥から声を出した。少し色っぽくてどきりとする。
もう少しいいかな、と唇を割って舌を差し入れてみる。無意識なのか、その成歩堂の舌を挟むように、ゴドーの唇が動いた。
「ん、ぅ…」
ええいままよと成歩堂は羞恥を忘れて舌を絡めた。たまにぴくりとゴドーがキスに応えるような反応をするが、恐らく無意識なのだろう。
「…ん、………ッ!」
びくりとして、成歩堂は舌を抜いた。
「か、噛まれた…!」
そう、舌を噛まれたのだ。慌ててゴドーの顔を見たが、ニヤけるでもなくすうすう眠っている。本当に眠っているのだろう。無意識で成歩堂の舌に応え、そしてまた無意識で、睡眠の妨害となる何かを排除したのだろう。
「ひどいや…」
なんて仕返しだと成歩堂はゴドーの胸に顔をぐりぐりと押し付けた。
「……まる、ほど…?」
すると、口付けても起きなかったゴドーが今度は起きてしまったらしく、掠れた声を上げた。
「あ。ゴドーさん」
「いま…」
「まだ夜ですよ。寝てていいんです。僕も今から寝るところです」
顔を寄せて答えてやると、ゴドーは薄く開いていた目を再び閉じた。そして抱き枕よろしく、成歩堂を全身で抱きしめた。
「わわわ、」
「…このカラダ、隅々まで洗ったかい、コネコちゃん……」
風呂上りの匂いがいいのか、ゴドーは成歩堂の髪に鼻を寄せてすんすんと匂いをかいだ。。
「あ、洗いましたよ。ゴドーさんが、俺と頑張るまでは休むな、って言うから」
そう恨みがましく言ってやると、ゴドーは起きているのか寝ているのかよくわからないような表情で、だが吐息だけで笑った。
それからすうすうと30秒ほど寝息を立てたかと思えば、再び呟く。
「明日…」
「明日?」
「あした…起きたらヤろうぜ。……それまで、待てるかい…?」
それだけ言って、今度は本当に寝てしまった。
この色欲魔め、と思いながら成歩堂は目の前の男が可愛くて仕方がなくなって、微笑んだ。






翌朝、目が覚めるとゴドーはまだ寝ていた。首だけで振り返って時計を見ると、まだ5時半だった。昨日の酒のせいで眠りが浅かったのだろうか。
ふん、と鼻息を吐いて、成歩堂はこちらを向いて静かに眠っているゴドーの胸に収まりにいった。2度寝ってなんて幸せなんだろう、なんて暢気なことを考えながら、ゴドーの腕に頭を乗せて、再び目を閉じた。




ゴドーが目を覚ましたとき、腕の感覚がなくなっていた。
「………」
腕に頭を乗せている成歩堂を起こさないようにしつつ、ゆっくり起き上がった。
成歩堂の頭を乗せていた腕が、痺れていた。感覚がなかったのはそのせいで、今はどくどくと血液が循環しているような変な感覚がしていた。
時計を見ると6時だった。
成歩堂は、隣にゴドーがいなくなったせいか、ううんと唸って体を丸くした。
くすりと笑って、ゴドーは成歩堂に覆い被さる。そして、軽く口付けた。
成歩堂は目を覚ましたようではなかったが、自分から横に向けていた体を仰向けにした。くすりと笑って、ゴドーは再び口付ける。
「……ん」
成歩堂の唇が、ゴドーを受け入れるかのように動いた。ゴドーは少し楽しくなる。成歩堂が起きないのをいいことに、どんどんエスカレートする。舌を絡め、唇を吸い、首筋を撫でた。
「ふ、ん……、んぅ…」
ぴくり、と体が少し震えて、成歩堂の腕がゴドーの背に回った。さすがにもう無意識でやっていることではないのだろう。ゴドーが唇を離して、微笑んだ。
「起きたかい、コネコちゃん」
「もう…、どうして寝かしといてくれないんですか?」
重たそうな瞼をやっと持ち上げながら、成歩堂がぼそぼそと言った。言って顎を上げたので、ゴドーは再び口付けてやる。だが、今度は軽く、だ。
「お前の身体を見てたら、辛抱堪らなくなったのさ」
「我侭だなあ…ほんとに。昨日は自分が眠いからってさっさと寝といて、今はヤりたいから寝てる僕を叩き起こすんですか?」
ゴドーは喉の奥で笑って、成歩堂の額に口付けた。
「…重いですよ、ゴドーさん」
「まあそう言うなよ」
ゴドーは成歩堂に覆いかぶさったままで、上半身は少し腕で支えているが、下半身はべったり密着している。成歩堂は抵抗を示そうと身じろぐが、密着している感覚をより感じただけで、あまり効果は無かった。
「や、ですよ…っ」
「何をそんなにむずがるんだい?朝になったら、って言ったじゃねえか」
「ほんと…っ、勝手、すぎます!」
耳元で囁かれて、成歩堂は体が震えた。なんだってこのひとの声はこんなに低く響いて、色気を醸しているのだ。その声が自分に囁きかけてくるのだから、腰が砕けそうだと思った。
そんな不埒なことを考えている成歩堂の頬にゴドーは口付ける。成歩堂は口をへの字に曲げて、ゴドーの顎を掴んだ。
「…こっちでしょう。キスは」
言って、唇に口付けさせた。
「そりゃあ、失礼しましたね」
ゴドーは何がそんなに嬉しかったのか、と成歩堂の眉が照れ隠しで必要以上に寄るくらいの笑みを口元に浮かべる。
「申し訳ねえが、1ヶ月ぶりのお前の身体で、こっちはダセえくらい気持ちも身体も昂ぶっちまってんのさ。手荒にはしねえが、手加減なんかはできそうにないぜ」
だから準備はいいかい、とゴドーは囁く。
準備なんか出来ている。気持ちの準備なら会うと決まった日から、身体の準備は昨夜からだ。それは殆ど準備でも覚悟でもなく、期待だった。
「本当にそれは申し訳ない話ですね。そんなの…、じゃあ、僕の気持ちはどうなるんですか?」
「お前の気持ち?」
予想とは違った返事に、ゴドーは一瞬虚を突かれたような表情になった。
「そうです」
言って、成歩堂はなんとかゴドーの身体を押しのけ、といっても本気で抵抗するようならゴドーだって無理にベッドに押さえつけておいたりしないのだからさして労力もかからなかったのだが、そして起き上がった。
「…僕だって、」
ゆっくりと焦らすような気持ちで、成歩堂はゴドーを仰向けに倒し、肩に手を置いて身体に跨る。
「僕だって1ヶ月ゴドーさんを我慢してきたんですよ。まだまだ全然話し足りない。キスし足りない。それに、ゴドーさんを身体でたくさん感じたい、です。こんな僕の気持ちは蔑ろですか?」
ゴドーはまた少し驚いたような顔をして、だがすぐに極上の笑みを浮かべると、成歩堂の手に、自分の手を重ねた。
「まるほどう…」
「何ですか」
成歩堂が上半身を倒して、胸を密着させてきた。先程のゴドーと成歩堂を、殆どそのままひっくり返したようなものだ。
その成歩堂の腰を抱いて、ゴドーが成歩堂もろともくるりと身体を半回転させると、また先程の、ゴドーが上の体勢に戻った。
「安心しな。幸い俺もお前も目的は一緒みたいだぜ」
「へえ。それはよかったです」
ゴドーが成歩堂のシャツの中に手を突っ込んで腹をまさぐると、成歩堂は白々しく返事をして、息を詰めた。
「リクエストがあったら聞いちゃうぜ。あれば言いな」
「や、優しく…」
「…おぼこじゃねえんだ。それにそんなことは当たり前のことじゃねえのかい」
喉の奥で笑ってゴドーは口付け、そこから顎、喉仏、鎖骨、へと下を順に這わせていく。
「ひ、……っ、じゃ、あ」
「じゃあ?」
鎖骨からまた上ってきて、今度は耳の裏を舐められた。ゴドーが喋ると吐息が耳にかかってぞくぞくする。
「じゃあ、…すっごく気持ちよくしてください」
「いつものじゃあ気持ちよくないってかい?」
「い、いつもより、すっごく、です。あと、いつもよりゆっくり、たっぷり」
耳をわざと音を立てて舐めやると、成歩堂の背がびくりと一瞬浮いた。
いつもより少し強気で、少し敏感な成歩堂がかわいくて、ゴドーはもう一度口付けた。














ゴドーがケトルで湯を沸かしながらミネラルウォーターを飲んでいると、成歩堂がボクサーパンツを穿いて、上に薄いTシャツを着て、ふらふらと現れた。
「ふう」
わざと大げさに息を吐き、そのままゴドーのいるキッチンまでは来ずに、リビングのソファへ力尽きるように倒れ込んだ。
「どうしたまるほどう。わざわざ来なくってもコーヒーぐらい運んでやったぜ」
昨夜来たまま寝たスラックスとシャツをそのまま適当に着直しただけのゴドーは、湯が沸いたのでコンロの火を止めて、予めセットしてあったドリッパーに少量注いだ。
丁寧にコーヒーを入れているゴドーを、成歩堂は眺める。
「起きたらゴドーさんがいなかったから。つい来ちゃっただけですよ」
それだけ言うと、成歩堂は目を閉じた。実はまだまだ寝足りないのだが、ゴドーがいないと思ったら傍に行きたくなったのだ。目的が果たされたので、もう眠気には勝てなくなっていた。
「おい、まる。わざわざここに寝に来たのかい」
コーヒーを注いだマグをふたつまとめて片手に持ち、もう片手にミルクを注す小瓶と、角砂糖の小皿を持ってやって来てそれをローテーブルに置くと、ゴドーはわざわざ成歩堂の腹の前に座った。
「いま、まるって言いましたか…?」
「言ったぜ。それがどうかしたか」
殆ど寝ぼけているような口調で成歩堂が言うのにも、ゴドーはきちんと答えてやる。
「ふうん…」
何を納得したのかわからないが、成歩堂はそれだけ呟くと、ゴドーに手を伸ばした。目は開いていないので、その手がゴドーの背を撫で、腹を撫で、腕を撫でる。
「おい、まるほどう。コーヒー引っ被りたいのかい」
マグを持つ腕を触られて、ゴドーは少し慌てた。だが成歩堂は大して構いもせず、ふにゃりと口元に笑みを浮かべた。
「ゴドォ、さん。ちゅーしてください」
「何がちゅーだい。イイ年した男が」
呆れて笑いながらゴドーはマグを置くと、身体を倒して成歩堂に顔を近付けた。未だに目が開いていない成歩堂は、だが気配を感じてふにゃふにゃと笑った。
だがゴドーが鼻の頭に口付けると、途端に表情が曇った。
「ゴドーさん、ゴドーさん」
「どうした?」
子供のように呼んでくる成歩堂が、たまらなく可笑しい。そして愛しい。
「口にしてください」
「ん?」
「こっちがいいです」
ようやく薄目が開いた成歩堂がゴドーの後頭部を掴んで、顔を寄せてきた。それに応えてやって、また笑う。
「わがままなコネコちゃんだぜ」
「わがまま?それって、きらいって意味ですか?」
「まさか。好きって言ってんのさ」
すき、と繰り返すと、成歩堂は再び笑んだ。
「ねえゴドーさん」
「ん?」
「ベッドがいいです」
「…何だって?」
すう、と成歩堂が寝息を立てた。
ふらふらとここまでやってきておいて、しかも散々寝ぼけた後はベッドまで運べとまでと言う成歩堂に、ゴドーは苦笑せざるをえなかった。小柄ななりでもないというのに、無茶を言う。
「…わがままなお姫サマだぜ」
起きたらもう一度腹括れ、と思いながら、まだ少ししか口を付けなかったコーヒーを残し、ゴドーは成歩堂を何とか運んでやった。
ゴドーが再びコーヒーを淹れ直しにやってくるのは、また数時間後のことだった。















END


*********************
ウフフ。
初の逆裁小説です。
ゴドナルへの愛は溢れんばかりにあるんですが、なにせ文才が追いつかないのです。ハア。
ほんとはヤっちゃってるとこまで書いてもよかったけど、てかいっそ書きたいってかほとんど書きそうになってたけど、なんとかやめておきました。今回はちょっと、ということで。
とか言いながら、抜けてる間をそのうち書きたいとかも思ってたりする。フフ。
ゴドナルがもっとたくさん書けたらいい。


2010.01.31