じゃあ見に行こうと云ってくれたのは虎鉄で。 繋いだ手はどちらも冷たかった。 「ばってんさー虎鉄?見に行くっちゅーても一体どこ行くん?」 「あーそれはだNaー」 「埼玉におる限り雪なんか見れんよ?」 「わーってRu!黙ってついてこいってNoー」 言って、虎鉄は俺ん手をぎゅっと握った。 俺らは最初HR教室にいて、それからはいきなり手を引いて階段を登り続ける虎鉄に黙って引っ張られとった。 どこに行くんかというてもここは学校。 上のほうの階で虎鉄が俺を連れてってくれそうなとこなんか予想がつく。 「なんよー。やっぱ屋上やん」 「なんだよやっぱっTe。ひでーNo」 「お前の考えそうなことなんかなーもー結構わかってきとーよ」 「以心伝心?」 「やったらよかね」 「いやぁ単純や云うたはるんやろ?」 案の定やってきた屋上を見渡しながら話しとったら、いきなりどっからか声がした。 「黒豹!!」 「クロちゃん?」 「どーも」 聞き慣れた声で、聞き慣れた関西弁で。 もしやというか寧ろ確信さえある予想がまたもやあたり、そこには先客としてクロちゃんがいて、もう残り少なくなっている煙草を指に挟んでいた。 「何でお前がいるんだYo」 「よかやろー。ここは別に俺らだけの場所やなかよ」 「さっすがタケやー優しいな」 「あーこら!猪里に触るんじゃNeー!!」 「せからしか」 クロちゃんが俺の頭をぽんぽんと触ると虎鉄が馬鹿に騒ぎ出した。 「で、何しにきたん?こんな寒いとこにわざわざ来るなんて変な奴らやな」 「その言葉お前にくれてやりてーYo。お前こそ何でいんDa」 「煙草吸うために決まってるやん。校舎裏もトイレも嫌やったからここしかなかってん」 「煙草は体に悪いって言いよると。あんま吸うたらいかんよ?」 「やっぱ優しいわータケ。わいの嫁にならへん?」 「ぜってーなんNeー!」 またクロちゃんが頭を撫でて来たので、虎鉄はそれに過敏に反応して騒ぎ出し、俺とクロちゃんの間に割って入った。 「こら、虎鉄…!」 「猪里も嫌なら嫌って云えよNa!はっきり云わないからつけあがんだよこいつHa」 「嫌やなかよ」 何でか知らんが俺の腕を掴んで必死になっている虎鉄を見上げると、虎鉄は眉を吊り上げて俺をじっと見た。 「何ね。いつからお前そんなクロちゃん嫌いになりよったと?」 「嫌いになった訳じゃねーYo。ただ…」 「ただ?」 「……」 「何なん?はっきり言いやぁ」 虎鉄が口ごもっとるとクロちゃんが悪戯っぽく言った。 それを聞いて虎鉄はクロちゃんをぎろりと睨む。 「おーこわ。んな睨まんでえーやん」 尚もふざけた調子でクロちゃんはけらけら笑っていた。 「あ、あんねー、俺達は雪を見に来たとよ。俺が雪見たかね、ちゅーたら虎鉄がここまで引っ張って来て。ねー虎鉄?」 「ん。おう」 俺が空気を変えようと思ってそう言うと、虎鉄は普通に返事してくれた。 俺はここへ喧嘩の観戦に来たんではないんやしね。 「雪?」 「そ、雪。俺福岡に住んどったとやろ?でも埼玉って福岡ほど雪降らんやん。なんか急に雪見たくなったかなぁって」 「貧乏な学生が雪見るためだけに県外に出んのはしんどいだRo。だったらもう空がよく見える場所で、雪降んねーかなーなんて思いながら空見上げるしかねーと思ったんだYo」 「ふーん」 それが実際に雪を見ることに繋がることとは思えんかったけど、クロちゃんは馬鹿にせずに聞いてくれていた。 ぽとり、と短い煙草を地面に捨てて、それを踏み潰しながらクロちゃんは言った。 「やったらさー、わいの実家おいでよ」 「は?」 「わい実家関西やん?関西やったら福岡よか近いし、ここより福岡より雪降るで。交通費は俺のバイト代から捻出出来るし、上手くいけば…まぁタケ可愛いしまず上手くいくやろうけどオカンが金少しは出してくれるやろうし。な、タケ、どうや?京都とか奈良とか大阪とか、ついでに案内したるさかい一緒に行こうや」 せっかく俺が流れを良いほうに持って行こうとしとったのに、クロちゃんはあっさりとさっきまでの流れに引き戻してしまった。 心配して虎鉄のほうをちらっと見てみたが、俺の予想に反して虎鉄に怒った様子はなかった。 むしろ余裕に満ちた笑みまで浮かべとってなんかこわいぐらい。 「残念だがNaー黒豹。猪里ちゃんは俺と2人で雪見たいっつってんだYo。お前とは行かねぇNo」 「虎鉄…」 何を言い出すのだ思って虎鉄をもう一度見上げると、いきなり手を引っ張られた。 その手を握られたんがクロちゃんに見られるのが嫌で振り払おうとしたばってん、俺らの手は虎鉄の体の後ろになっていて、多分クロちゃんには見えとらんかったと思う。 「…はは。冗談で言うてみただけやん。マジになんなや虎鉄」 「でももし猪里が行くっつったら連れてってただろーGa」 「俺、行くなんて云わんよ?」 云って虎鉄を見上げたら、虎鉄はなんかびっくりしたよーな顔をしていた。 「ごめんな、クロちゃんが嫌やと云うてるんやなかよ?ただ、お金のこととかさ…。雪見たい、云いよるだけで実家にお邪魔すんのも気兼ねするし。部活やってあるし?」 な、と言って手をぎゅっと握ると、虎鉄はきょとんとしとった。 見れば、クロちゃんも似たような表情をしとった。 「え、何ね。俺何か変なこと…」 「いやぁタケらしいなって思って」 「お前考えが所帯じみてるっTe!良い奥さんになりそーだNa」 「あ、阿呆!」 ふにゃけた笑いを浮かべよる虎鉄の足を蹴飛ばしたら、いきなりクロちゃんが笑い出した。 「な、何?」 「いやぁ自分らまじラブラブやんか。羨ましーて仕方ないわ」 「んなこたなか!」 云われて俺は繋いでいた手を放した。 すぐにその手を自分のほうへ戻したが、虎鉄の手が名残惜しそうについてくるので虎鉄から1歩離れることにした。 「こんなんやったらきっと雪も降らへんな。熱々すぎて。」 「だからそんなやないって…!!」 「照れんなYoー」 「阿呆!せからしかねぇ!!」 小突いてくる虎鉄の手をはたいて睨み上げると、虎鉄はふざけた様子で離れてった。 「はは、・・・わいはもー帰るわ」 「え、何で?」 「もーしんどい。ここにおられん」 「しんどいって・・・どうしTa?煙草吸い過ぎて肺癌Ka?」 「阿呆。お前らの邪魔モンになんのがしんどい云うてんねん。まっあとはのんびりいちゃこらっとけ」 「いちゃこらって・・・」 「わいいっつもこんな役回りやなぁ?いつか刺し殺していい?虎鉄」 「ばーKa。いくねぇSi。猪里が後を追って死んじまう」 「せんし・・・」 「あーそらあかんな。やめとこ」 「やけんせんて・・・」 猪里は無視されているかのように二人は会話を続け、そして黒豹はさっさと退散してしまった。 黒豹の後ろ姿を見送りながら、虎鉄はまた猪里の手を握った。 「・・・なん」 「怒んなYo」 「怒ってなかし」 「ならいいけDo」 猪里はあえて虎鉄の手を振り解こうともせずに、只突っ立っていた。 虎鉄はその手をぎゅっと握り、笑んだ。 「クロちゃんてさ、いい人やんね」 「んー、いい人って言っていいのかNe」 「・・・いい人やんね」 小さい声で反芻する猪里の顔をそっと覗き込んで、虎鉄は猪里の髪を触り始めた。 「・・・ん」 「どうしTa」 「いい人って思わな、しんどいよ。・・・流石に俺もそんなに鈍くなかけんし」 「大丈夫。お前は俺だけのモンDa」 「・・・んー」 云って虎鉄が抱き締めると、猪里はその肩口に顔を摺り寄せた。 「・・・雪!降るといーNa」 「・・・うん・・・」 「折角見に来たんだしNa?寒い思いしただけじゃ笑えねーSi!」 「・・・うん」 「やーな思いした後は、必ずイイ思いが出来るようになってんDa。雪が降んなきゃ、俺がキスでも何でもしてやRu。最高にイイ思いさせてやRu!」 「うん」 虎鉄が云うと、猪里は少し笑って、虎鉄の背中に手を回した。 それを合図みたいに、虎鉄も猪里をぎゅっと抱き締めた。 「じゃーさー」 「ん?」 「雪降ったらもーキスはしてくれんの?」 「してやるZe?」 そう云って、虎鉄は猪里の唇に、そっと軽く触れるだけのキスをした。 「あはは、・・・もー、どっちにしても一緒やん・・・」 「いーんじゃねーNoー?好き勝手やっちゃえばSa。誰にも迷惑かかってねぇじゃん?」 「クロちゃんにも?」 「クロちゃんにも」 「俺さー、虎鉄と一緒に居るの好きよ」 「うん」 突然何を云い出すのだろう、と思ったが、あえて聞かずに虎鉄は大人しく話を聞くことにした。 「クロちゃんと一緒に居るのも好き」 「・・・うん」 「3人で居るのも、楽しいし、好き。梅ちゃんも、好きよ。部活の皆も、他にも、たくさん」 「うん」 虎鉄の肩に顔をうずめて、猪里はゆっくり続ける。 「ばってんなー、やっぱ虎鉄と2人で居るのが、今は一番好き」 猪里の耳が赤くなっているのを見つけて、可愛いな、と思った。 「・・・・・・もーやや・・・。恥ずかし・・・。珍しーくこげんことたくさん話してしまった・・・」 顔が真っ赤で恥ずかしいから、顔を上げることが出来ないんだろうな、と思って頭をよしよしと撫でてやると、猪里は虎鉄の服をぎゅっと掴んだ。 「溶けてなくなりたかー・・・」 「でももう俺聞いちまったZeー?」 からかうような調子で虎鉄が云うと、猪里は押し黙ってしまった。 「・・・・・・」 「・・・猪里?」 「・・・ばーか」 「馬鹿じゃねーSi」 「阿呆」 「・・・はは」 まだもう少しかかりそうな、猪里の照れ隠しに付き合ってあげようと虎鉄は思った。 何せ、可愛い可愛い恋人である。 こんなのは、苦になる筈もない。 「あー、雪降れ雪ー!」 「・・・せからしかねー、馬鹿」 END **************** 甘ッッ つーか黒豹何者?爆 途中から方向を見失ったせいで、只の甘い話になりました。 心情の描写とかあんま上手く出来ません。 つうか言葉を知らない人間なので、上手く書けません。 語彙が乏しいって損ですね。笑 2005.3.31 |